極東4th

 好意?

 自分の思考に、嘲笑が浮かんだ。

 どこの世界に、魔女に好意を持つ海族がいるのか。

 そう思って、早紀の本当の母親の存在が頭を掠める。

 海族と、何らかの関わりのある魔女。

 死んでなお、娘を振り回し続ける。

 確かに、その女の血を、早紀はきっちり引いている気がした。

 でなければ、これほどまでに真理が振り回されることなどないのだろうから。

 人畜無害のようにうなだれる魔女から、海水がしたたり落ちる。

 彼がこのまましゃべらなければ、あと数十時間でもそのまま時を止め続けそうな気配だ。

 理不尽だな。

 その言葉は、山ほど彼の中で渦を巻き続ける。

 だが。

 早紀を打ちのめすほどの、強い怒りがわきあがらない。

 それが、真理にも不思議だった。

 いくら鎧の憑き魔女とは言え、死なない程度に怒りをぶつけることは出来るのだ。

 それほどの屈辱を、この女は真理に与えたはずである。

 逃亡し、海族の手に落ち、殺されかけ、それを当主自らに助けに行かせた。

 憑き魔女でなければ、間違いなく万死に値する。

 なのに、深く呼吸を繰り返しながら、早紀の前に立っているのだ。

 おそらく、あきれかえっているのだ、自分は。

 真理は、そう分析した。

 あきれすぎて、怒りを通り越してしまったのだ、と。

 だから、物も言えないでいる。

「………」

 物も言えない自分にしびれをきらし、彼は唇を開きかけた。

 しかし、声は出ない。

 何を言えばいいのか──さっぱり分からなくなってしまった。

 いつものように冷たく突き放し、部屋に戻せばいい。

 二度と部屋から勝手に出ないよう、出入り口に魔錠でもかければいい。

 なのに、真理は言葉を探せなかった。

 そう。

 彼は、早紀にかけるべき言葉を、無意識に探していたのだった。