極東4th

 目の前に、黒いしぶきが飛ぶ。

 それが何なのか、早紀は分からないまま見つめていた。

 しぶきは、噴水のように前方に飛び散り、大きな何かの足元を濡らす。

 なまあたたかい滝のような液体が、自分の喉を、制服を伝う。

 声を出したかった。

 なのに、声の出し方を忘れてしまった。

 嗚咽ひとつ出せない。

 それどころか。

 息さえできていない気がした。

 ひゅぅと、変な空気の漏れる音。

「素晴らしい! 素晴らしい!」

 修平の声が、遠くに聞こえる。

 ほの白かった存在の足元から、塗り替えられるように黒さが這い上がっていく。

 それを呆然と聞くしか出来なかった早紀の頭の後ろに、冷たい吐息がかかった。

 そう。

 いま、彼女の真後ろにいるのは──真理。

「いいか…抵抗するな…愛されろ」

 変な。

 変な言葉。

 ましてや、真理の唇から『愛』というものが聞けるなんて。

 何に。

 誰に。

 視界が、次第に暗くなっていく。

 全身の力が、何かに吸い取られていく気分だ。

 心地いいではない。

 深く辛い闇に、足を掴まれて引きずり込まれるカンジ。

 それが。

『死』と言う言葉に、限りなく近いのだと、沈む意識の中で、早紀は気づいた。


 そして。

 早紀は。

 死んだ。