極東4th

 そして真理は、理不尽な女の前に立つ。

 二人──ずぶ濡れのまま。

 しかも、その水は塩水というおまけ付きだった。

 早紀が囚われていたのは、海中だったのである。

 自室の床を海水で汚しながら、真理は魔女を見下ろしていた。

 彼女はうなだれていて、死刑判決を待っているようにも見える。

 ふらふらと家を出て、海族に捕まって殺されかけてました、など失態と呼べるレベルではない。

 青い被膜の向こう。

 真理は、海中で見たのだ。

 彼女の首にかかる、男の手を。

 正確には、早紀の魔力の糸が、穴を穿った瞬間に見えたのだ。

 何を、素直に殺されかけている。

 真理は、目を見開いていた。

 そして──糸の穿った穴を引き裂いたのだ。

 海族の男を、見た。

 生まれて初めて見る、青の一族。

 氷の壁を突き破り、彼は水の主の顔をして、闇の鎧を見据えたのである。

 自分が生身であり、相手が鎧持ちの魔族であったとしても、一切の脅えも怯みもなかった。

 あの目は。

 戦う者の目だった。

 上に立ち、殺せる者の目だった。

 本能的に真理は気づいたのだ。

 海族と蝕を争うことになったならば、この男と相対することになろう、と。

 確かに、男は早紀を殺そうとしていた。

 だが。

 殺し方の、手ぬるさが気になってもいたのだ。

 その気になれば、早紀は一瞬で絶命させられただろう。

 憎い魔族の女を殺す方法とは、とても思えなかった。

 そして。

 男は、早紀を帰した。

 真理が奪い返したのは間違いないが、最終的にそれに男は同意したのだ。

 でなければ、海中であっさり見逃すはずがない。

 援軍を呼ぶことも出来たはずだ。

 なのに、見逃した。

 まるで。

 まるで、そう──早紀に、好意にも似た感情を抱いているかのように。