極東4th

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「ただし…あなたが追わなければなりません」 

 早紀の魔力の糸を、自分から切り離す前――タミは言った。

 この糸の戻る場所を、真理自らが追え、と言うのだ。

 ただでさえ理不尽に出て行った者を、カシュメルの当主である彼が。

 タミは、自分の青い手のひらから伸びる糸を、不服げに見下ろした。

「この糸は、純粋な彼女の魔力で出来ています…ということは、切り離した途端…私は見失ってしまうでしょう」

 不服なのは、早紀の存在を見失ってしまう自分について、か。

 タミの言葉は、彼女の持つ正しい知識で出来ている。

 カシュメルが――いや、早紀と契約している真理でなければ、糸を追えないと言うのだ。

 手のかかる。

 ため息の後。

「糸を切れ」

 そう、指示を出した。

 しゅるんっ。

 戒めから逃れた早紀の糸は、風などない室内で、一度うねるように舞い上がった。

 タミは、宙に視線をさまよわせている。

 もうおぼつかなくなったのか。

 次の瞬間。

 糸は、最短距離をゆくべく、窓のわずかな隙間をすり抜けた。

 あの通りに、追え、と。

 ふぅ。

 真理は、窓辺に近づくと、そのガラスを開ける。

 まだ、明るい外。

 生身で飛ぶのは…久しぶりだな。

 人間に見られず飛ぶくらいは、まったく問題はない。

 問題は。

 他の魔族。

 カシュメルの当主が、真昼間から生身で空を飛ぶ。

 どんな、あらぬ噂を立てられるものか。

 しかし。

 真理には、選択肢はなかった。

 こうしている間にも、糸は遠くへと向かう。

 ああ。

 理不尽だ。

 真理は、窓から飛び立った。