極東4th

 首をへし折られるほどの強さではなく、伊瀬はただ静かに早紀を殺そうとしてくれた。

 その、残酷なあたたかさの向こうで―― 一滴。

 確かに一滴、水がしたたったのだ。

 それは、青く細い流れを生み出した。

 雫を追うように細長い青が、滑り込んできたのである。

 ぁ。

 苦しい喉元が、ドクンっと反応した。

 あの、青は。

 あの――濃紺は。

 刹那。

 青い空間自体が、大きくたわんだ。

 ぐわんと、気が唸った。

 伊瀬が、はっと顔を天に向けた時。

 泡のように。

 部屋は。

 弾けた。

 水は、即座にうねりを持って早紀を包みこむ。

 首から引き離される、あたたかな残酷。

 しかし、その大きな手は、即座に早紀を捕まえようと伸ばされた。

 ここは、水の中。

 伊瀬のテリトリー。

 この中なら彼は、地上よりも速く、そして強い。

 早紀の目前に、大きな手か広がる。

 再び、彼女が伊瀬に捕らわれようとした――その時。

 いきなり降りた白いカーテンが、その手を消してしまう。

 冷たい、とても冷たい、氷のカーテン。

 あ。

 ぁあ!

 急激な温度の変化に、早紀を取り巻く水は蜃気楼のように揺らめいた。

 早紀の真上。

 いびつな光の屈折率の物陰から。

 白い白い指先が――伸ばされていた。