極東4th

 大きな手。

 片手でも、楽に掴めそうなのに、伊瀬は両手を早紀の首に回した。

 今度こそ…本当に死ぬんだろうなあ。

 理由も分からず、既に二度殺されたのだ。

 今度の死は、まだ分かりにくいながらに理由がある。

 実の母親の、ツケを支払うということだ。

 払ってやる義理などはない。

 しかし、早紀が生きている意味を見いだせない以上、抵抗してまで生に執着する気になれなかったのだ。

「何故だ…」

 首にかけられた手に、まだ力はこめられない。

 代わりに、伊瀬の苦しげな声が漏れ落ちる。

「何故、君はそんなにも魔女らしくないのだ…海が…我らの力が、そうさせるのか」

 魔女らしくないなんてもう、聞き飽きてしまった。

 第一、少し前まで自分は人間だと信じて疑っていなかったのだから。

「魔族なんて……」

 早紀は、首にかけられた手を温かくさえ感じた。

 真理の手は――冷たかった。

 彼は、早紀を一番最初に殺した。

 脳裏に、真理の冷たさがよぎる。

「魔族なんて…クソ食らえよ」

 言った直後。

 胸がしめつけられた。

 ああ。

 思い出したくない記憶が、掠めてしまう。

 初対面で、早紀を追い出そうとした男の子がいた。

 それからずっと、追い出そうとしていた少年がいた。

 今夜、家に帰ってくるなと言った男がいた。

「愛されろ」、と言った魔族が――いた。

 あれは、なんだったのか。

 彼は――何をしたかったのか。

 今更。

 今更考えても、何もかも遅く詮ないことだ。

 早紀は、死ぬ。

 今度こそ、本当に。

 苦しげに、伊瀬は指に力を込めた。

 その力に押されるように、早紀は天を仰ぐ。

 青い天井。

 その天井から―― 一滴、青い水がしたたった。