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「母……」
茫然と、伊瀬はその言葉を繰り返した。
少しの時間の後、彼の瞳に強い意思が戻る。
その瞳が、じぃっと早紀を見つめた。
今までも、彼女は見られていた。
しかし、それとはもっと違う意味の視線だ。
何もかもを検分するような、強い視線。
「で…君の母は?」
視線をはずさないまま、ゆっくりと彼は問う。
答えいかんによっては、早紀は尋問でも受けるのだろうか。
しかし、そんなことは無意味だ。
「母は死んだそうです…私は会った覚えもありません」
一体、どれくらいの間、自分が母に育てられたかさえ、早紀には覚えがない。
自分の記憶が、何の役にも立たないことを伝える。
写真をもらった時、早紀はそれが自分の母であることさえ、分からなかったのだから。
「そう…か」
伊瀬は、明らかに落胆したようだった。
声は、深いため息と共にこぼれ落ちたのだ。
彼にとっては、手掛かりがぷっつりと切れてしまったに違いない。
母とは、何という罪作りな魔女だったのか。
彼女は、二人の人間を不幸にした。
育ての母である人間は、いまは病で苦しんでいる。
伊瀬は、盗まれた宝に困っている。
早紀の中に、その母への愛はない。
それどころか──いまは、憎しみさえ感じていると言っていいだろう。
自分の不幸の元凶である魔女。
早紀には、そう思えて仕方がなかった。
彼女が、どん底で母を憎んでいる間。
落胆していた伊瀬の視線が、ゆっくりゆっくりと早紀の顔に焦点を合わせていった。
気づいた時。
早紀は、自分の瞳の奥深くまで、彼に貫かれている錯覚を覚えたのだ。
「もしかして…」
だが、伊瀬の声にあったのは、信じられない驚きを含んだ響きだった。
「もしかして…あれを…使ったのか?」
視線は早紀に。
しかし、言葉は──死者に向けられているもののようだった。
「母……」
茫然と、伊瀬はその言葉を繰り返した。
少しの時間の後、彼の瞳に強い意思が戻る。
その瞳が、じぃっと早紀を見つめた。
今までも、彼女は見られていた。
しかし、それとはもっと違う意味の視線だ。
何もかもを検分するような、強い視線。
「で…君の母は?」
視線をはずさないまま、ゆっくりと彼は問う。
答えいかんによっては、早紀は尋問でも受けるのだろうか。
しかし、そんなことは無意味だ。
「母は死んだそうです…私は会った覚えもありません」
一体、どれくらいの間、自分が母に育てられたかさえ、早紀には覚えがない。
自分の記憶が、何の役にも立たないことを伝える。
写真をもらった時、早紀はそれが自分の母であることさえ、分からなかったのだから。
「そう…か」
伊瀬は、明らかに落胆したようだった。
声は、深いため息と共にこぼれ落ちたのだ。
彼にとっては、手掛かりがぷっつりと切れてしまったに違いない。
母とは、何という罪作りな魔女だったのか。
彼女は、二人の人間を不幸にした。
育ての母である人間は、いまは病で苦しんでいる。
伊瀬は、盗まれた宝に困っている。
早紀の中に、その母への愛はない。
それどころか──いまは、憎しみさえ感じていると言っていいだろう。
自分の不幸の元凶である魔女。
早紀には、そう思えて仕方がなかった。
彼女が、どん底で母を憎んでいる間。
落胆していた伊瀬の視線が、ゆっくりゆっくりと早紀の顔に焦点を合わせていった。
気づいた時。
早紀は、自分の瞳の奥深くまで、彼に貫かれている錯覚を覚えたのだ。
「もしかして…」
だが、伊瀬の声にあったのは、信じられない驚きを含んだ響きだった。
「もしかして…あれを…使ったのか?」
視線は早紀に。
しかし、言葉は──死者に向けられているもののようだった。


