ずぶ濡れの鎧が、真理の部屋を濡らす。
構うこともなく、彼は早紀の中から抜け出た。
あぁ。
いまほど、彼女はその喪失感を、痛く感じたことはなかった。
ほんのわずかの温度も失って、自分がただの抜け殻になってしまう気がしたのだ。
せめていっそ。
肉を持たない、この無機質な鎧のままでいられたら。
しかし、真理の指が額をなぞる。
ガシャン。
金属が崩れ落ちるように、早紀を肉の塊に戻してしまう。
水で湿った床に、彼女は膝をついた。
そんな早紀を、真理は見下ろしているようだ。
「何故、そんなに過去にこだわる…」
降り注ぐ視線に乗って、彼はそう聞いた。
さっきの母の姿が、早紀の脳裏を矢のように貫く。
だ。
だって。
彼女は、自分のおかっぱの頭を、強く両手で掴んだ。
だって、私には。
「私には……過去しかないもの」
楽しい記憶も、嬉しい記憶も、あの過去の中にしかない。
小さな小さな絵本におさまる程度の、短い幸せな思い出。
その後は。
ただ生かされ、ただ生き延びていただけ。
ああ。
疲れた。
強い倦怠感と、虚無感に包まれる。
早紀は、のろのろと立ち上がった。
のろのろしたまま、真理の部屋を出る。
そして。
自分の部屋を、素通りしたのだ。
そのまま──屋敷を出てしまった。
構うこともなく、彼は早紀の中から抜け出た。
あぁ。
いまほど、彼女はその喪失感を、痛く感じたことはなかった。
ほんのわずかの温度も失って、自分がただの抜け殻になってしまう気がしたのだ。
せめていっそ。
肉を持たない、この無機質な鎧のままでいられたら。
しかし、真理の指が額をなぞる。
ガシャン。
金属が崩れ落ちるように、早紀を肉の塊に戻してしまう。
水で湿った床に、彼女は膝をついた。
そんな早紀を、真理は見下ろしているようだ。
「何故、そんなに過去にこだわる…」
降り注ぐ視線に乗って、彼はそう聞いた。
さっきの母の姿が、早紀の脳裏を矢のように貫く。
だ。
だって。
彼女は、自分のおかっぱの頭を、強く両手で掴んだ。
だって、私には。
「私には……過去しかないもの」
楽しい記憶も、嬉しい記憶も、あの過去の中にしかない。
小さな小さな絵本におさまる程度の、短い幸せな思い出。
その後は。
ただ生かされ、ただ生き延びていただけ。
ああ。
疲れた。
強い倦怠感と、虚無感に包まれる。
早紀は、のろのろと立ち上がった。
のろのろしたまま、真理の部屋を出る。
そして。
自分の部屋を、素通りしたのだ。
そのまま──屋敷を出てしまった。


