極東4th

 雨の中で。

 伝聞ばかりで作られた、昔話を聞いた。

 昔々、ではなく――ちょっとだけ、昔の話。

 魔女と人間の娘が出会い、親交を持ったこと。

 魔女が、自分の赤ん坊を、人間に預けて死んだこと。

 人間は、その子を育てていた。

 しかし。

 人間と魔族が長く一緒にいたために、魔気のせいで人間はどんどん身体を壊して弱っていった。

 このままでは、魔族の子供を残して死んでしまう。

 そう悟った人間は、生前の魔女が言っていた言葉を頼りに、彼女の血族に子供の存在を伝える。

 そこへ、ちょうど生け贄の魔女を欲しがっていた本家に、その情報が届いた。

 生け贄にされるとも知らず、育てられなくなった人間は、子供を手放した。

 それが、早紀の幼少時代の真実。

 産みの母は死んだ。

 しかし、育ての母は生きていた。

 だから、早紀の知る真実と、事実は食い違っていたのである。

 淡々と事実のみを語られる言葉を聞きながら、早紀の目は病室のベッドを見ていた。

 彼女は、入院生活を余儀なくされているようだ。

 自分の発していた魔気が、どれほど育ての母を苦しめたのだろう。

 死を感じるほどに、彼女を追い詰めていたのだ。

 早紀は、動けないまま窓を見ていた。

 どうして、近づけようか。

 魔気でボロボロにされた女性に、更に魔気を浴びせることなど、出来るはずがなかった。

 愛の記憶が。

 早紀の中に、確かにあった愛の記憶が、雨に打たれていく。

 狂おしいほど、この愛を伝えたい相手がそこにいるというのに、雨はその火が燃え上がるのを邪魔するのだ。

 後はただ、くすぶるばかり。

 何も考えられなくなった早紀の身体は、ゆっくりと病院に背中を向けた。

 自分の意思ではない。

 真理が、そうしたのだ。

 鎧でよかった。

 初めて──そう思った。

 でなければ、早紀はきっと一人では帰れなかっただろうから。