雨の中で。
伝聞ばかりで作られた、昔話を聞いた。
昔々、ではなく――ちょっとだけ、昔の話。
魔女と人間の娘が出会い、親交を持ったこと。
魔女が、自分の赤ん坊を、人間に預けて死んだこと。
人間は、その子を育てていた。
しかし。
人間と魔族が長く一緒にいたために、魔気のせいで人間はどんどん身体を壊して弱っていった。
このままでは、魔族の子供を残して死んでしまう。
そう悟った人間は、生前の魔女が言っていた言葉を頼りに、彼女の血族に子供の存在を伝える。
そこへ、ちょうど生け贄の魔女を欲しがっていた本家に、その情報が届いた。
生け贄にされるとも知らず、育てられなくなった人間は、子供を手放した。
それが、早紀の幼少時代の真実。
産みの母は死んだ。
しかし、育ての母は生きていた。
だから、早紀の知る真実と、事実は食い違っていたのである。
淡々と事実のみを語られる言葉を聞きながら、早紀の目は病室のベッドを見ていた。
彼女は、入院生活を余儀なくされているようだ。
自分の発していた魔気が、どれほど育ての母を苦しめたのだろう。
死を感じるほどに、彼女を追い詰めていたのだ。
早紀は、動けないまま窓を見ていた。
どうして、近づけようか。
魔気でボロボロにされた女性に、更に魔気を浴びせることなど、出来るはずがなかった。
愛の記憶が。
早紀の中に、確かにあった愛の記憶が、雨に打たれていく。
狂おしいほど、この愛を伝えたい相手がそこにいるというのに、雨はその火が燃え上がるのを邪魔するのだ。
後はただ、くすぶるばかり。
何も考えられなくなった早紀の身体は、ゆっくりと病院に背中を向けた。
自分の意思ではない。
真理が、そうしたのだ。
鎧でよかった。
初めて──そう思った。
でなければ、早紀はきっと一人では帰れなかっただろうから。
伝聞ばかりで作られた、昔話を聞いた。
昔々、ではなく――ちょっとだけ、昔の話。
魔女と人間の娘が出会い、親交を持ったこと。
魔女が、自分の赤ん坊を、人間に預けて死んだこと。
人間は、その子を育てていた。
しかし。
人間と魔族が長く一緒にいたために、魔気のせいで人間はどんどん身体を壊して弱っていった。
このままでは、魔族の子供を残して死んでしまう。
そう悟った人間は、生前の魔女が言っていた言葉を頼りに、彼女の血族に子供の存在を伝える。
そこへ、ちょうど生け贄の魔女を欲しがっていた本家に、その情報が届いた。
生け贄にされるとも知らず、育てられなくなった人間は、子供を手放した。
それが、早紀の幼少時代の真実。
産みの母は死んだ。
しかし、育ての母は生きていた。
だから、早紀の知る真実と、事実は食い違っていたのである。
淡々と事実のみを語られる言葉を聞きながら、早紀の目は病室のベッドを見ていた。
彼女は、入院生活を余儀なくされているようだ。
自分の発していた魔気が、どれほど育ての母を苦しめたのだろう。
死を感じるほどに、彼女を追い詰めていたのだ。
早紀は、動けないまま窓を見ていた。
どうして、近づけようか。
魔気でボロボロにされた女性に、更に魔気を浴びせることなど、出来るはずがなかった。
愛の記憶が。
早紀の中に、確かにあった愛の記憶が、雨に打たれていく。
狂おしいほど、この愛を伝えたい相手がそこにいるというのに、雨はその火が燃え上がるのを邪魔するのだ。
後はただ、くすぶるばかり。
何も考えられなくなった早紀の身体は、ゆっくりと病院に背中を向けた。
自分の意思ではない。
真理が、そうしたのだ。
鎧でよかった。
初めて──そう思った。
でなければ、早紀はきっと一人では帰れなかっただろうから。


