極東4th

 雷と雨を引き裂いて飛んでいた鎧は、ゆっくりと減速していく。

 はっきり、目的を持った動きだった。

 鎧の中で、寒くもないのに震えを止められずにいた早紀は、ある方向を見た。

 正確には、いまの鎧の主導者である真理が向いた方を、自動的に見ただけだ。

 雨にけぶる四角い建物の、ひとつの四角い窓。

 その窓辺には──ベッドがあった。

 そして。

 人が、横たわっていた。

 病院?

 早紀が、ぼんやりとその認識をした直後。

 あ。

 決壊する一瞬前の、ひとつの言葉。

 ぁああああああ!!!!

 ステルスなど、一瞬で崩壊するほどの大声を、早紀は鎧の全身で放っていた。

 勿論、それは物理的に外に漏れることはない。

 真理の、意識的聴覚をつんざくだけだろう。

 しかし、早紀は叫ばずにはいられなかった。

 そこには、おかっぱの女性がいたのだ。

 記憶より年を重ねてはいるものの、早紀の記憶を鮮明に塗りつぶすほどの威力があった。

 お母さん!

 猛獣が吠えるように、早紀はそれを叫んだ。

 驚きよりも早く、野生そのもので出来た愛しさが駆け抜ける。

 そして、本能のまま彼女はその部屋へ向かおうとした。

 のに。

 ガチャン。

 身体は、不恰好な金属の音を立てるだけで、真理に制されてしまっていた。

 すぐそこに、会いたくてしょうがなかった母がいるのだ。

 一秒でも早くその側に駆けつけ、自分が早紀だと名乗りたかった。

 そして、優しく抱きしめて欲しかった。

 制御される鎧もものともせず、早紀はガシャガシャと関節部を鳴らして動こうとしたのだ。

『あれは…人間だ。お前の本当の母ではない』

 あ、れ?

 鎧の動こうとする雑音のせいで──何を言われたか、よく聞こえなかった。