極東4th

 夜になっても、真理は部屋に戻らなかった。

 早紀は、何度も勇気を奮い起こし直して、部屋に向かったのだ。

 ついには、彼の部屋のドアを開ける暴挙までおかしたのだから、不在は間違いなかった。

 泥水を掻き混ぜるような濁った思考になりながら、彼女は母の写真を抱えていた。

 そんな早紀の気持ちを追うように、雷鳴が轟き、強い雨が降り始める。

 お母さん。

 何回、そう呼び掛けただろう。

 胸に抱えている、写真の女性に向ける言葉だ。

 決してあんな派手で、魔女魔女しい女に向けるものではない。

 だが、そんな早紀の心を、修平の言葉が踏みにじる。

 必死に否定しながら、早紀は十数回目の、真理の部屋詣でに向かうのだ。

 既に早紀の心には、海族のことなど消え去っていた。

 本当に自分という存在を守ることだけしか、考えられなかったのだ。

 ドアをノックする。

 沈黙。

 その後。

「…入れ」

 真理は――戻っていた。

 あ。

 心臓が、握りつぶされるような痛みを、早紀は覚えた。

 いきなり、答えがそこにあるのだと感じたせいだ。

 真理は、誰かも問わずに入れと言った。

 早紀が、来たとわかっていて、入れ、と。

 震えの走った手で、ドアを開ける。

 室内は、真っ暗だった。

 闇の中に、真理が立っている。

 瞬間。

 雷鳴が一瞬、部屋を照らす。

 白い真理の肌が――ひどく蒼く見えた。