極東4th

 あの真理が――驚いていた。

 床に転がる早紀を見て。

 初めて見るその顔に、早紀の方が驚いてしまいそうだ。

 しかし、そんな場合ではない。

 彼女は、不自由な姿のままで、二人を見上げた。

 驚いている真理の横で、修平は薄ら笑いを浮かべている。

「ほら…真理…これが必要なものだろう」

 何を。

 修平は、何を言っているのか。

 彼の指す手は、早紀の方を向いている。

 笑顔をたたえ、瞳は恍惚と輝きながら真理を見ていた。

「この大事な日に、この子を家に置いておかないなんて…駄目じゃないか」

 修平の瞳が、ふっと自身の手へと落とされる。

 左の手首。

 時計の位置。

 修平の唇の端が、ゆっくりと上がる。

「ハッピーバースデイ、真理」

 瞬間。

 ゴトリ、と重い音がした。

 二人の男の、もっと後ろ。

 ミシミシと、床がきしむ。

 一筋の、冷たい空気が早紀の鼻先を撫でた。

 何。

 四本の足の向こうは、暗い空間。

 そこで何の音がしているのか、早紀は目をこらして見ようとした。

「さあ、お目覚めだ」

 修平が、音の方を──ではなく、早紀の方へと歩みを進めてくる。

「長い眠りだったんだ…おなかをすかせているんだ…かわいそうに」

「あっ!」

 早紀は、縄を切られた事実を認識する暇もなく、右腕を掴まれ引き上げられた。

 自分の足で立っている、ということではない。

 修平の片手に釣り上げられるようにして、ぶらさがったのだ。

 不安定に、足がゆらゆらと揺れる。

 痛い、という事実より先に、全身を襲う恐怖。

 掴まれた手の冷たさが、つま先まで凍らせるようだ。

「だから…」

 そんな恐怖の彫刻と化した早紀に。

 真理が、小さくため息をついた。

「だから…出て行けと行ったんだ」