けれど、口が勝手に言葉を紡いでしまう。
多分、彼の、彼女に対する反応だとか、色々なことが気になってしまっているからだろう。
「!、聞いてたのか‥?」
バッと勢いよく振り向く英に栖栗は、断じて違う!、と一喝。
英は背中に激痛を感じながら、怪訝そうに顔を顰める。
すると、栖栗は吊り上げていた眉を降下させ、言いにくそうに呟く。
「聞こえたの、偶然。あの人、チワワのことが好きなのよ、きっと」
「‥‥‥」
英は何も言えなかった。
栖栗の口からそんな言葉が出ると思わなかったのだ。
心のどこかで、彼女は色恋事から遠い存在だ、と、勘違いしていたようだ。
英は何だか気が重くなった。
苛立ちすら覚えてしまうのは、このじめじめとした気候のせいなのだろうか。
「相合い傘くらい安いもんでしょ」
英が何も言わないものだから、栖栗は追い討ちをかけるかのようにまた呟いた。
そして、居心地の悪さを感じつつも、帽子を左右を掴みながら深く被り直す。
「‥‥帰るぞ」
英は帽子にあった栖栗の左手を掴むと、それだけ言って、再びスクールバックを漁り始めた。


