「あっ‥ありがとう、ございます‥っ」
あさひは、差し出されたビニール傘を受け取って、とても大切そうに抱えた。
聖母が赤子を抱えるかの如く、優しく、柔らかく──言い過ぎかもしれないが、少なくとも栖栗にはそう見えた。
いつの間にか、持ち手に加えられていた力は、緩められていた。
英はあさひの背中を見送りながら、自身のスクールバックを漁っていた。
栖栗は、彼女の姿が完全に見えなくなったことを確認すると、そんな英にゆっくりと、音もなく近付く。
数メートル近くに来たところで、一気に助走を付け、黒く頼りない背中に向かって──
「相合い傘くらいしてあげなさいよ!!!」
ドカッ!!!!
と飛び蹴りを一発。
あまりに勢いがある、その素晴らしい蹴りに、英は顎から転びそうになるも、何とか足で踏ん張って、よろめくだけに抑える。
栖栗はフンッと鼻息を荒くする。
でも、本当に言いたかったことは、そんなのじゃ、なかった。


