栖栗はスクールバックの持ち手にぎゅうっと力を込めた。
両者とも、これを言えば引き下がるだろう、と思っていたから、びっくりしたのだ。
「え」
「ダメですか‥?」
ダメに決まってるじゃない!
栖栗はヒステリックに叫ぶ。
もちろん、心の中で。
すると、英は傘を畳み、苦笑いした。
けれど、それは、あさひを迷惑に思ったからではなかった。
自分の本心を言うことに、少しだけ戸惑っていたのだ。
「二人で入ったとしても、どうせ君の肩や荷物が濡れるだろ?」
どうやらこれが、傘に誰にも入れない理由だったらしい。
今度は栖栗とあさひが目を見開いた。
そして、あさひは笑った。
はにかみながら笑う彼女には、似つかわしくない、真っ黒な空と、矢のように降る雨。
栖栗は、そして、また、何かに安心した。
何に?、と問われても、どうせ明確な答えは出ないのだ。
でも、とりあえずは、英の優しさと誠実さを見た気がしたから、今はもうそれでいい。
「コレ、使っていいから‥明日、返してくれればいいよ」


