恋なんて知らないっ!

「……由良」

「ん? なぁに?」


隼人くんは、少しだけ真剣な顔をして言った。


「俺だけ応援して」

「……え?」

「ほかのやつじゃなくて、俺だけ」


そう言い残して、隼人くんはコートへ向かっていった。

…………。

???


えっと……どういうこと?



とりあえず、隼人くんを応援しよう!

そう思っていると、場内アナウンスが響いた。


『これより、テニス部の部内試合を開始します!』


いよいよ試合が始まった。


隼人くん、頑張れ〜っ!!

……って。


えええええっ!?

隼人くん、すごすぎない!?


相手のボールを次々と打ち返して、どんどんポイントを取っていく。


気づけば、隼人くんは決勝戦まで勝ち進んでいた。


すごい……!


普段はちょっと意地悪なところもあるのに、テニスをしているときは、なんだか別人みたい。


「えっ!?」

隼人くんが転んだ!?


うそっ!?

だ、大丈夫なの!?


思わず立ち上がって、コートを見つめた。

隼人くんは一瞬、動きを止めた。


でも、すぐに立ち上がると、ラケットをぎゅっと握り直した。

そして、再びボールを追いかけ始めた。


……頑張って!

頑張って、隼人くん!


私は夢中で応援していた。


そして……

『試合終了! 優勝は、南隼人選手です!』

「やったぁーーーっ!!」


思わず声が出た。


隼人くん、優勝だ!!

すごい! すごすぎるよ!!


喜んでいると、隼人くんがこちらに気づいた。

そして、私に向かって走ってきた。


「は、隼人くん!」


隼人くんは私の目の前で立ち止まると、にやっと笑った。


「……由良」

「な、なに?」

「俺、勝ったんだけど」

「うん! おめでとう! すっごくかっこよかったよ!」

「……っ!」


隼人くんが一瞬、言葉に詰まった。

……あれ?

私、変なこと言ったかな?


すると、隼人くんは少しだけ顔を赤くしながら言った。


「……勝ったんだから、ご褒美が欲しい」

「ご、ご褒美?」

「そう」


えっと……ご褒美?

手作りクッキーとか?

それとも、おそろいの何かとか?

うーん……何がいいんだろう?


「えっと……何がいい?」


私が尋ねると、隼人くんはまっすぐ私を見つめた。


そして……


「……由良からのキス」

「…………えっ?」


…………。

………………。


…………えええええええっ!?

い、い、今……

なんて言ったの!?


キス!?

キスって、あのキス!?


「な、ななな、何言ってるの!?」

「聞こえなかった?」

「き、聞こえたけどっ!!」

「じゃあ、いいだろ?」

「い、いいわけないでしょーーーっ!!」


私が真っ赤になって叫ぶと、隼人くんは楽しそうに笑った。


「ははっ。冗談だよ」

「も、もうっ! 隼人くんのバカ!!」


……本当に、心臓に悪い。

でも。


さっきの隼人くんの顔。


どうしてだろう。

冗談を言っているようには、見えなかったんだ。