きみの青春に、私もいたい。

三年生のクラス対抗リレー。

「瀬名先輩、アンカーだって!」

莉子が興奮した様子で教えてくれた。

「……そうなんだ」

「澄花、ちゃんと応援してあげなよ!」

「……分かってる」

私は三年生のテントを見つめた。

さっき、あんなに大きな声で応援してもらったんだから。

今度は私の番。

……なんだけど。

「位置について!」

ピストルの音が響く。

一斉に走り出す三年生。

バトンが次々と渡されていく。

そして、最終走者。

「晴臣ー! 頼んだ!」

相沢先輩の声が聞こえた。

瀬名先輩がバトンを受け取る。

その瞬間、会場が沸いた。

「瀬名くん、頑張ってー!」

「抜ける抜ける!」

先輩は前を走る選手との差を、あっという間に縮めていく。

一人。

そして、もう一人。

「……すごい」

思わず声が漏れた。

最後の直線。

私は気づけば立ち上がっていた。

「……瀬名先輩!」

届くはずのない声。

それでも。

「頑張って!」

先輩がゴールテープを切った。

一位。

大きな歓声が上がる。

私は夢中で拍手していた。

*

「小鳥遊さん!」

競技を終えた先輩が、こちらへ走ってきた。

「見てた!?」

「……はい。すごかったです」

「やった! 一位!」

子どもみたいに喜ぶ先輩。

「……おめでとうございます」

「ありがと!」

先輩は嬉しそうに笑った。

「小鳥遊さんの声、聞こえた気がした!」

「……え?」

「最後の直線!」

「……気のせいですよ」

「えー、絶対聞こえたって!」

……なんで、そういうことばかり言うんだろう。

私は顔が熱くなるのを感じた。

そのとき。

「晴臣!」

後ろから、女の子の声がした。

篠宮琴葉先輩だった。

「一位、おめでとう」

「おー、琴葉! ありがと!」

二人は自然に話し始めた。

「相変わらず速いね」

「いやー、最後ちょっと危なかった!」

「昔から、最後になると無茶するんだから」

「それ言うなって!」

……昔から。

私の知らない先輩の話。

当たり前なのに、少しだけ気になった。

「小鳥遊さんも、お疲れさま」

篠宮先輩がこちらを向いた。

「……ありがとうございます」

「晴臣、すごく応援してたね」

「……あ、はい」

「珍しいなって思った」

先輩は優しく笑った。

悪気なんて、きっとない。

それなのに。

何と答えればいいのか分からなかった。

「……あの、私、クラスに戻りますね」

私は小さく頭を下げた。

「え、小鳥遊さん?」

瀬名先輩の声がしたけれど。

振り返らなかった。

*

「……澄花?」

テントに戻ると、莉子が心配そうに顔を覗き込んできた。

「どうしたの?」

「……何でもない」

「ほんと?」

「うん」

そう答えた直後。

近くにいた女子生徒たちの会話が聞こえた。

「ねえ、瀬名先輩って小鳥遊さんと仲いいの?」

「さっき、めっちゃ応援してたよね」

「付き合ってるとか?」

「えー、まさか!」

……違う。

付き合ってなんか、いない。

でも。

そう言われて、少しだけ嬉しいと思ってしまった自分がいた。

「……澄花」

莉子が私の手を握った。

「気にしなくていいからね」

「……うん」

私は笑おうとした。

けれど、うまく笑えなかった。

*

体育祭の閉会式が終わった頃。

スマートフォンが震えた。

瀬名先輩からだった。

『今日、応援ありがと!』

続けて、もう一通。

『一緒に帰れる?』

私は画面を見つめた。

……いつもなら。

きっと、嬉しくてすぐに返事をしていた。

でも。

さっき聞いた言葉が、頭から離れない。

『付き合ってるとか?』

『えー、まさか!』

……そうだよね。

私と先輩なんて。

そう思われても、仕方ない。

私は少し迷ってから返信した。

『今日は莉子と帰るので、すみません』

送信。

すぐに既読がついた。

『そっか! また学校で!』

いつも通りの、明るい返事。

……なのに。

胸がちくりと痛んだ。

*

帰り道。

「澄花、瀬名先輩のこと好きなの?」

莉子が突然、尋ねてきた。

「……え?」

「ずっと気になってたんだけど」

私は足を止めた。

好き。

……好き?

先輩と話すのは楽しい。

会えると嬉しい。

声を聞くと、安心する。

でも。

「……分かんない」

正直に答えた。

莉子は少し驚いたあと、優しく笑った。

「そっか」

「……うん」

「じゃあ、ゆっくり考えたらいいよ」

その言葉に、少しだけ救われた気がした。

けれど。

帰宅してからも、私は何度もスマートフォンを見てしまった。

先輩からの新しいメッセージは、ない。

……当たり前だ。

自分から断ったんだから。

それでも。

今日、先輩が私を呼んだ声が。

何度も、頭の中で繰り返されていた。