あたりはとても静かだった。
鳥のさえずりも、風に揺れる木々のざわめきも聞こえなかった。
楓は何かに導かれるように、その木にそっと触れた。
その瞬間。
静寂を破るように、笛の音が響いた。
驚いて手を離し、あたりを見渡す。
けれど、笛を吹いている人の姿はどこにもなかった。
音の正体を確かめたくて、楓はあたりを歩き回った。
桜の花が散らばる土の地面。木の根元。草むらの中。
スピーカーのような、音の出どころになりそうなものは見当たらない。
それなのに、笛の音だけが林の中に響いている。
よく聞くと、音楽の授業で聞いた尺八の音に、似ていた。
その音は、春の暖かな日差しの中を野うさぎがぴょん、ぴょんと跳ね回るような、軽やかな旋律を奏でていた。
聞いたことのない曲だった。

