(エヴェリー様……)
それは、リアラが「ハザマ」と呼ばれるこの村に迷い込む直前の光景。四年間思い続けていた男性が、副団長からからかわれていた姿だ。
逢魔が森の守護者、白狼騎士団団長であるケイラン・ソーン・エヴェリー。長い鳶色の髪。意志の強そうな眉と唇。骨折した影響で少しだけゆがんだ鼻でさえ彼の魅力を損なうことはなく、左頬に走る傷跡ですら彼の男らしさを強調しているに過ぎない。
勇猛果敢な騎士でありながら、書類仕事をしている時の眼鏡姿は知的で近寄りがたく、遠くから眺めているだけで、うっとりとため息をこぼす令嬢も少なくない。
三十代に入っても独身で、数多の縁談をことごとく断っているのは、長年想い続けている女性がいるとのもっぱらの噂。
かの女性は二度と会えない場所にいるらしい。エヴェリーはその人だけを思い続けているから結婚しないのだという話はロマンティックでもあり、令嬢たちの間では公然の秘密であった。
だからそっと憧れるだけ。
苦しくても切なくても、彼は誰のものにもならないのだという安心感が自分の中にあったのだろう。
「ついに身を固めるのか」「待ち続けててよかったなぁ」
風に乗って切れ切れに聞こえた声はそんな祝福とからかいの混じった言葉で、リアラは目の前が真っ暗になった。
エヴェリーに初めて会ったのは十五歳も終わりの頃。それから四年間、憧れの人だと自分に言い聞かせていた気持ちが嘘だったことを、この時はじめて思い知った。
はじめは憧れ。ほんのり淡い初恋だった。
相手は十三歳も年上の大人の男だ。子どもの自分など相手にされるはずもない。
そのことを十分に理解したうえで、リアラも周りの令嬢と同じように、素敵な男性であるエヴェリーを見て心をときめかせた。物語のヒーローに憧れるような、淡い想いだった。そのはずだった。
でもそれは彼の人柄を知るうちにつれ、いつしか愛に代わっていたのだ。
友人との他愛ない会話で求婚をしてくれる男性について想像しあったとき、本当はエヴェリーのことが思い浮かんだことは誰にも内緒だった。恋に夢を見すぎているお子様みたいだと思ったから。
でも違う。
夢でもなんでもなく、リアラは本当に、心の底から彼を慕っていたのだ。
(こんなこと、気づきたくなかったわ)



