困っています。
私は今、人生で一番と言っても過言ではないほど、困っていました。
「……あなたの瞳が、世界で一番美しいと思っています」
「~~~~っ!」
思い出した瞬間、顔が熱くなる。
私は慌てて両手で頬を押さえました。
……どうしましょう。
また、思い出してしまいました。
昨日の王宮での舞踏会。
そして、今日の午後に訪れた、あの方。
ライズ・エールリッヒ様。
伯爵家の次男で、私より一つ年上の青年。
黒に近い濃紺の髪に、柔らかな琥珀色の瞳を持つ、穏やかな雰囲気の方でした。
けれど、その行動は穏やかとは程遠いものでした。
何しろ、王太子殿下から婚約破棄を宣言された私に、あろうことか大勢の貴族たちの前で求婚する機会を求めてこられたのですから。
しかも、その理由が。
「……私の、瞳」
私は机に置かれた手鏡を手に取りました。
そこに映っているのは、銀白色の髪をした一人の少女。
そして、淡い水色の瞳。
幼い頃から、何度も見つめてきた色でした。
アズナル王国では、黄金色の瞳こそが最も美しいとされています。
初代国王が黄金の瞳を持っていたことから、その色は高貴さの象徴となりました。
王族に嫁ぐ令嬢であれば、なおさら重要視されます。
けれど、私の瞳は黄金色ではありません。
どれほど勉学に励んでも。
どれほど礼儀作法を磨いても。
生まれ持ったこの色だけは、変えることができませんでした。
『そのような瞳で王太子妃を名乗るなど、恥を知るがいい』
昨日、レイド殿下から告げられた言葉。
もちろん、傷つかなかったわけではありません。
婚約者として、幼い頃から努力を重ねてきたのです。
それを否定されたのですから、悲しくないはずがありませんでした。
ですが、不思議なことに。
今の私の頭を占めているのは、その言葉ではなかったのです。
『僕は、あなたの瞳が世界で一番美しいと思っています』
「……世界で、一番」
ぽつりと呟く。
途端に、また頬が熱くなりました。
……もう。
どうして、あの方はあんなことを平然とおっしゃれるのでしょうか。
昨日だってそうです。
初対面の女性に向かって、瞳が美しいと何度も褒めるなんて。
それどころか。
『あなたの瞳だけでなく、あなた自身のことを、もっと好きになりたいんです』
「~~~~っ!」
私は思わず、手鏡を伏せました。
……無理です。
思い出すだけで、心臓が落ち着かなくなります。
これまで、男性からあのような言葉を向けられたことなど、一度もありませんでした。
婚約者だったレイド殿下からでさえ。
……いえ。
あの方からは、褒められた記憶そのものがほとんどありません。
何かを成し遂げても、王太子妃になるのなら当然だと言われるだけ。
それでも私は、もっと努力すればいつか認めていただけるのではないかと考えていました。
今思えば、随分と愚かな期待だったのかもしれません。
「……はぁ」
小さく息を吐いて、椅子の背もたれに身体を預けます。
すると、控えめなノックの音が響きました。
「ストレア、入ってもいいかしら?」
「……お母様?」
慌てて姿勢を正します。
「はい。どうぞ」
扉が開き、柔らかな笑みを浮かべた女性が姿を現しました。
私の母、セレフィーナ・シュタインベル公爵夫人です。
「随分と難しい顔をしているのね」
「そ、そのようなことはございません」
「あら、そう?」
お母様は楽しそうに微笑みました。
「では、どうしてそんなに頬が赤いのかしら?」
「っ!」
反射的に、両頬を手で覆ってしまいました。
……しまいました。
これでは、自分から認めているようなものではありませんか。
そんな私を見て、お母様はくすくすと笑いました。
「ふふ。珍しいわね。あなたがそんな顔をするなんて」
「……お母様」
「ごめんなさい。でも、少し嬉しいのよ」
お母様は私の隣に腰を下ろしました。
「昨日は大変だったでしょう」
その言葉に、私は小さく頷きます。
「……はい」
「レイド殿下のことは、お父様がきちんと対応してくださるわ。あなたが一人で抱え込む必要はないの」
「ありがとうございます」
「それで……」
お母様が、少しだけ身を乗り出しました。
「エールリッヒ家のご子息とは、どんなお話をしたの?」
「…………」
……やはり、そのお話ですか。
私は膝の上で両手を重ねました。
「その……私の瞳を、お褒めくださいました」
「ええ、聞いているわ」
「それから、私のことをもっと知りたいと……」
「そう」
「……求婚する機会をいただきたい、とも」
最後のほうは、ほとんど消え入りそうな声になってしまいました。
お母様はしばらく私を見つめていましたが、やがて優しく微笑みました。
「嬉しかった?」
「……え?」
「瞳を綺麗だと言ってもらえて、嬉しかったかしら?」
私は、すぐには答えられませんでした。
嬉しかった。
きっと、そうなのだと思います。
けれど、それを口にしてよいものか、わからなかったのです。
私は公爵令嬢です。
王太子の婚約者として育てられ、常に淑女らしくあることを求められてきました。
自分がどう感じたかよりも、どう振る舞うべきかを考える。
それが、当たり前になっていました。
「……はい」
少しだけ迷ってから、私は答えました。
「嬉しかった、です」
お母様は何も言わず、続きを待ってくださいました。
「お父様やお母様は、いつも私の瞳を綺麗だとおっしゃってくださいます」
「ええ。本当に綺麗だもの」
「ですが……家族以外の方から、あのように言っていただいたのは、初めてでした」
それも、同情や慰めではなく。
心から美しいと思っているような、真っ直ぐな眼差しで。
「……少しだけ」
「うん?」
「少しだけ、自分の瞳を好きになれたような気がするのです」
そう告げると、お母様は目を細めました。
そして、私の髪をそっと撫でてくださいます。
「それは、とても素敵なことね」
「……はい」
「でもね、ストレア」
お母様の声が、少しだけ真剣なものになりました。
「その方があなたを好きだと言ってくれたからといって、あなたも好きにならなければいけないわけではないのよ」
私は顔を上げました。
「……お母様?」
「これまで、あなたは王太子妃としての責務を果たすために、たくさんのことを我慢してきたでしょう?」
「それは……」
「だから、今度はあなた自身の気持ちを大切にしてほしいの」
お母様は優しく微笑みました。
「ライズ様とお話ししてみたいと思うのなら、そうすればいい。まだよくわからないのなら、ゆっくり考えればいいのよ」
「……私自身の、気持ち」
「ええ。あなたが誰と一緒にいたいのか。それを決めるのは、あなたなのだから」
私は、その言葉を胸の中で繰り返しました。
自分で、決める。
そんな当たり前のことが、ひどく難しく感じられました。
けれど。
今日、ライズ様とお話ししたとき。
私は確かに、もう少しこの方とお話ししてみたいと思ったのです。
それだけは、誰かに命じられた気持ちではありませんでした。
「……お母様」
「なあに?」
「私、ライズ様のことを、もう少し知ってみたいです」
口にした瞬間、少しだけ胸が軽くなりました。
お母様は嬉しそうに頷きます。
「ええ。それでいいのよ」
そのとき、再び扉が叩かれました。
使用人が、お父様からの伝言を持ってきたのです。
三日後、公爵邸でライズ様を招いて茶会を開く予定だという内容でした。
もちろん、私が望むのであれば、という条件付きで。
「……三日後」
思わず呟く。
三日後には、またあの方にお会いするのですね。
そう思った瞬間、胸が小さく跳ねました。
「ストレア。どうする?」
お母様の問いかけに、私は一度だけ深呼吸をしました。
そして、静かに答えます。
「……ぜひ、お招きしてください」
「わかったわ。お父様に伝えておくわね」
お母様が部屋を出て行った後。
私は、もう一度手鏡を手に取りました。
そこには、いつもと変わらない自分が映っています。
銀白色の髪。
淡い水色の瞳。
何度見ても、黄金色になることのない瞳。
けれど、不思議でした。
昨日までと、少しだけ違って見えるのです。
「……綺麗、ですか」
鏡の中の自分に、そっと問いかけてみる。
もちろん、返事などありません。
けれど。
あの方なら、きっと。
迷うことなく、綺麗だとおっしゃるのでしょう。
そう考えると、自然と口元が緩みそうになりました。
「……ふふ」
小さな笑い声が漏れます。
そして、すぐに我に返りました。
……いけません。
私ったら、一体何を考えているのでしょう。
まだ二度しかお話ししていない方なのに。
しかも、初めての会話が求婚だなんて。
普通ではありません。
本当に、普通ではないのです。
それなのに。
「……三日後、ですか」
私は机の上に置かれた予定表へと目を向けました。
茶会の日付を確かめて、そっと指でなぞります。
どんなお話をすればよいのでしょう。
学院でのこと?
好きな本のこと?
それとも、魔法の研究について?
……いえ。
そもそも、ライズ様はどのようなお菓子がお好きなのでしょうか。
お茶の好みも伺っておかなければ。
せっかくお招きするのですから、楽しんでいただきたいですし……。
そこまで考えて、私ははっとしました。
「…………」
……どうしましょう。
気がつけば、私は三日後の茶会について、随分と真剣に考えていました。
しかも、少しだけ楽しみにしている自分までいるのです。
「……困りました」
私は小さく呟きました。
本当に、困りました。
だって。
あの方のことを思い出すたびに、胸が落ち着かなくなるのですから。
この気持ちが何なのか、今の私にはまだわかりません。
ただ、一つだけ確かなことがあります。
三日後。
私はきっと、あの方がいらっしゃるのを待ってしまうのでしょう。
……できれば、あまり顔が赤くならないようにしなければなりませんね。
そう思いながら鏡を覗くと、そこには既に頬を染めた私が映っていました。
「……もう」
私は小さくため息をつきました。
どうやら、完璧な淑女でいるというのは、私が思っていた以上に難しいことのようです。
私は今、人生で一番と言っても過言ではないほど、困っていました。
「……あなたの瞳が、世界で一番美しいと思っています」
「~~~~っ!」
思い出した瞬間、顔が熱くなる。
私は慌てて両手で頬を押さえました。
……どうしましょう。
また、思い出してしまいました。
昨日の王宮での舞踏会。
そして、今日の午後に訪れた、あの方。
ライズ・エールリッヒ様。
伯爵家の次男で、私より一つ年上の青年。
黒に近い濃紺の髪に、柔らかな琥珀色の瞳を持つ、穏やかな雰囲気の方でした。
けれど、その行動は穏やかとは程遠いものでした。
何しろ、王太子殿下から婚約破棄を宣言された私に、あろうことか大勢の貴族たちの前で求婚する機会を求めてこられたのですから。
しかも、その理由が。
「……私の、瞳」
私は机に置かれた手鏡を手に取りました。
そこに映っているのは、銀白色の髪をした一人の少女。
そして、淡い水色の瞳。
幼い頃から、何度も見つめてきた色でした。
アズナル王国では、黄金色の瞳こそが最も美しいとされています。
初代国王が黄金の瞳を持っていたことから、その色は高貴さの象徴となりました。
王族に嫁ぐ令嬢であれば、なおさら重要視されます。
けれど、私の瞳は黄金色ではありません。
どれほど勉学に励んでも。
どれほど礼儀作法を磨いても。
生まれ持ったこの色だけは、変えることができませんでした。
『そのような瞳で王太子妃を名乗るなど、恥を知るがいい』
昨日、レイド殿下から告げられた言葉。
もちろん、傷つかなかったわけではありません。
婚約者として、幼い頃から努力を重ねてきたのです。
それを否定されたのですから、悲しくないはずがありませんでした。
ですが、不思議なことに。
今の私の頭を占めているのは、その言葉ではなかったのです。
『僕は、あなたの瞳が世界で一番美しいと思っています』
「……世界で、一番」
ぽつりと呟く。
途端に、また頬が熱くなりました。
……もう。
どうして、あの方はあんなことを平然とおっしゃれるのでしょうか。
昨日だってそうです。
初対面の女性に向かって、瞳が美しいと何度も褒めるなんて。
それどころか。
『あなたの瞳だけでなく、あなた自身のことを、もっと好きになりたいんです』
「~~~~っ!」
私は思わず、手鏡を伏せました。
……無理です。
思い出すだけで、心臓が落ち着かなくなります。
これまで、男性からあのような言葉を向けられたことなど、一度もありませんでした。
婚約者だったレイド殿下からでさえ。
……いえ。
あの方からは、褒められた記憶そのものがほとんどありません。
何かを成し遂げても、王太子妃になるのなら当然だと言われるだけ。
それでも私は、もっと努力すればいつか認めていただけるのではないかと考えていました。
今思えば、随分と愚かな期待だったのかもしれません。
「……はぁ」
小さく息を吐いて、椅子の背もたれに身体を預けます。
すると、控えめなノックの音が響きました。
「ストレア、入ってもいいかしら?」
「……お母様?」
慌てて姿勢を正します。
「はい。どうぞ」
扉が開き、柔らかな笑みを浮かべた女性が姿を現しました。
私の母、セレフィーナ・シュタインベル公爵夫人です。
「随分と難しい顔をしているのね」
「そ、そのようなことはございません」
「あら、そう?」
お母様は楽しそうに微笑みました。
「では、どうしてそんなに頬が赤いのかしら?」
「っ!」
反射的に、両頬を手で覆ってしまいました。
……しまいました。
これでは、自分から認めているようなものではありませんか。
そんな私を見て、お母様はくすくすと笑いました。
「ふふ。珍しいわね。あなたがそんな顔をするなんて」
「……お母様」
「ごめんなさい。でも、少し嬉しいのよ」
お母様は私の隣に腰を下ろしました。
「昨日は大変だったでしょう」
その言葉に、私は小さく頷きます。
「……はい」
「レイド殿下のことは、お父様がきちんと対応してくださるわ。あなたが一人で抱え込む必要はないの」
「ありがとうございます」
「それで……」
お母様が、少しだけ身を乗り出しました。
「エールリッヒ家のご子息とは、どんなお話をしたの?」
「…………」
……やはり、そのお話ですか。
私は膝の上で両手を重ねました。
「その……私の瞳を、お褒めくださいました」
「ええ、聞いているわ」
「それから、私のことをもっと知りたいと……」
「そう」
「……求婚する機会をいただきたい、とも」
最後のほうは、ほとんど消え入りそうな声になってしまいました。
お母様はしばらく私を見つめていましたが、やがて優しく微笑みました。
「嬉しかった?」
「……え?」
「瞳を綺麗だと言ってもらえて、嬉しかったかしら?」
私は、すぐには答えられませんでした。
嬉しかった。
きっと、そうなのだと思います。
けれど、それを口にしてよいものか、わからなかったのです。
私は公爵令嬢です。
王太子の婚約者として育てられ、常に淑女らしくあることを求められてきました。
自分がどう感じたかよりも、どう振る舞うべきかを考える。
それが、当たり前になっていました。
「……はい」
少しだけ迷ってから、私は答えました。
「嬉しかった、です」
お母様は何も言わず、続きを待ってくださいました。
「お父様やお母様は、いつも私の瞳を綺麗だとおっしゃってくださいます」
「ええ。本当に綺麗だもの」
「ですが……家族以外の方から、あのように言っていただいたのは、初めてでした」
それも、同情や慰めではなく。
心から美しいと思っているような、真っ直ぐな眼差しで。
「……少しだけ」
「うん?」
「少しだけ、自分の瞳を好きになれたような気がするのです」
そう告げると、お母様は目を細めました。
そして、私の髪をそっと撫でてくださいます。
「それは、とても素敵なことね」
「……はい」
「でもね、ストレア」
お母様の声が、少しだけ真剣なものになりました。
「その方があなたを好きだと言ってくれたからといって、あなたも好きにならなければいけないわけではないのよ」
私は顔を上げました。
「……お母様?」
「これまで、あなたは王太子妃としての責務を果たすために、たくさんのことを我慢してきたでしょう?」
「それは……」
「だから、今度はあなた自身の気持ちを大切にしてほしいの」
お母様は優しく微笑みました。
「ライズ様とお話ししてみたいと思うのなら、そうすればいい。まだよくわからないのなら、ゆっくり考えればいいのよ」
「……私自身の、気持ち」
「ええ。あなたが誰と一緒にいたいのか。それを決めるのは、あなたなのだから」
私は、その言葉を胸の中で繰り返しました。
自分で、決める。
そんな当たり前のことが、ひどく難しく感じられました。
けれど。
今日、ライズ様とお話ししたとき。
私は確かに、もう少しこの方とお話ししてみたいと思ったのです。
それだけは、誰かに命じられた気持ちではありませんでした。
「……お母様」
「なあに?」
「私、ライズ様のことを、もう少し知ってみたいです」
口にした瞬間、少しだけ胸が軽くなりました。
お母様は嬉しそうに頷きます。
「ええ。それでいいのよ」
そのとき、再び扉が叩かれました。
使用人が、お父様からの伝言を持ってきたのです。
三日後、公爵邸でライズ様を招いて茶会を開く予定だという内容でした。
もちろん、私が望むのであれば、という条件付きで。
「……三日後」
思わず呟く。
三日後には、またあの方にお会いするのですね。
そう思った瞬間、胸が小さく跳ねました。
「ストレア。どうする?」
お母様の問いかけに、私は一度だけ深呼吸をしました。
そして、静かに答えます。
「……ぜひ、お招きしてください」
「わかったわ。お父様に伝えておくわね」
お母様が部屋を出て行った後。
私は、もう一度手鏡を手に取りました。
そこには、いつもと変わらない自分が映っています。
銀白色の髪。
淡い水色の瞳。
何度見ても、黄金色になることのない瞳。
けれど、不思議でした。
昨日までと、少しだけ違って見えるのです。
「……綺麗、ですか」
鏡の中の自分に、そっと問いかけてみる。
もちろん、返事などありません。
けれど。
あの方なら、きっと。
迷うことなく、綺麗だとおっしゃるのでしょう。
そう考えると、自然と口元が緩みそうになりました。
「……ふふ」
小さな笑い声が漏れます。
そして、すぐに我に返りました。
……いけません。
私ったら、一体何を考えているのでしょう。
まだ二度しかお話ししていない方なのに。
しかも、初めての会話が求婚だなんて。
普通ではありません。
本当に、普通ではないのです。
それなのに。
「……三日後、ですか」
私は机の上に置かれた予定表へと目を向けました。
茶会の日付を確かめて、そっと指でなぞります。
どんなお話をすればよいのでしょう。
学院でのこと?
好きな本のこと?
それとも、魔法の研究について?
……いえ。
そもそも、ライズ様はどのようなお菓子がお好きなのでしょうか。
お茶の好みも伺っておかなければ。
せっかくお招きするのですから、楽しんでいただきたいですし……。
そこまで考えて、私ははっとしました。
「…………」
……どうしましょう。
気がつけば、私は三日後の茶会について、随分と真剣に考えていました。
しかも、少しだけ楽しみにしている自分までいるのです。
「……困りました」
私は小さく呟きました。
本当に、困りました。
だって。
あの方のことを思い出すたびに、胸が落ち着かなくなるのですから。
この気持ちが何なのか、今の私にはまだわかりません。
ただ、一つだけ確かなことがあります。
三日後。
私はきっと、あの方がいらっしゃるのを待ってしまうのでしょう。
……できれば、あまり顔が赤くならないようにしなければなりませんね。
そう思いながら鏡を覗くと、そこには既に頬を染めた私が映っていました。
「……もう」
私は小さくため息をつきました。
どうやら、完璧な淑女でいるというのは、私が思っていた以上に難しいことのようです。
