食べ終わると、俺は食器を載せた盆を脇へ寄せ、湯とタオルを持ってきた
「身体を拭こう。 昨日と同じで、自分でできるところは自分でやってくれていいから」
エルザは頷いた、服の前を開き、袖から腕を抜く
俺は大きなタオルを渡した
エルザはそれを身体の前へ当てて、背中をこちらへ向ける
俺は湯に浸したタオルを絞り、肩からそっと拭いた
昨日ついていた泥はもう残っていなかった
「痛くない?」
「うん」
エルザは小さく俯いていた
俺は背中を拭き、タオルをすすぐ
「ハロルド」
「どうした?」
「本当に……気にならないの?」
「何が?」
「こんな身体。 跡が残っても、気にしないって言ってくれたけど」
俺はタオルを絞る手を止めた
「ああ、本当だよ」
「ずっと、このままかもしれないのに?」
「きっと、今よりよくなる。 でも、跡が残ったとしても、そのことで嫌になったりはしないよ」
エルザは身体の前へ当てていたタオルを握り直した
「そういうの、男の人は嫌なんじゃないの?」
「嫌がる人もいるかもしれないね。 でも、俺だって人のことを言えないから」
「ハロルドは……醜くないよ」
彼女が振り返った
「髭は剃った方がいいけど」
俺は少し笑った
「そうだね、あとで剃ってくるよ。 エルザに嫌われたらしんどいからね」
エルザの頬が少し赤く染まった
「顔だって、悪くないと思う。 なんでそんなに、自分のことを悪く言うの?」
俺は返事に困った、そんなことを言われても
俺の経歴を聞いた途端、嫌な顔をされることには慣れてしまった
それに、服の中までは見えないから
「服で隠れてるけど、古傷があってね。 ちょっとだけ、見せてもいいかな」
俺は湯の桶を脇へ寄せ、上着のボタンを外した
右肩まで見えるように上着をずらすと、エルザの視線がそこへ移った
「……それ」
右胸から肩にかけて大きなやけどの跡がある
色の変わった皮膚が引きつれた、古い傷だった
もう痛みはないが、鏡で見れば自分でも醜いと思う
「昔……ひどいやけどを負ってね。 内戦が終わった頃のことだよ」
エルザはしばらく、その跡を見ていた
「魔法で治せないの?」
「この跡を消すのは難しいね。 これでも多少は見た目を良くする治療を受けたんだよ。 命が助かっただけで十分だと思ってる」
彼女がそっと手を伸ばした
途中で止めて、俺の顔を見る
「触ってもいい?」
「ああ、いいよ」
エルザの指先が、やけどの跡に触れた
冷たい指だった
彼女は指を滑らせることもなく、そのまま手のひらを置いた
「痛くない?」
「もう痛くないよ。 ずいぶん昔の傷だから」
エルザは頷いてから、俺を見上げる
「それじゃ、私たちお似合いだね」
彼女は少し笑った
「私も、気にならない。 醜いなんて、思わないよ」
俺はエルザの顔を見た
慰めようとして言ったようには見えなかった
そこに傷があることを確かめて
それでも構わないと、ただ言ってくれている
胸に置かれた手が、少しずつ温かくなってきた
俺は何も言えずにいた
この跡に、誰かがこうして手を置いたことはなかった
エルザがゆっくりと手を離す
「見せてくれて、ありがとう」
「いや……こちらこそ」
何に対して礼を言ったのか、自分でもすぐには説明できなかった
俺は上着のボタンを留めた
エルザもタオルを身体に当て直し、また背中をこちらへ向ける
「まだ、拭いてくれる?」
「もちろん」
俺はタオルを湯に浸した
温度が下がっていたので、少しだけ温め直す
それから背中の続きを拭いた
「私、なにかハロルドの役に立ちたい。 料理を覚えるし、掃除とか洗濯なら、できると思う」
「エルザが元気になったら、お願いすることもあるだろうね。 でも、今は休んでほしい」
「何もしないのって、落ち着かないの……」
エルザの声が少し小さくなった
「食べさせてもらって、寝かせてもらって、ずっと、ハロルドにお世話してもらってるだけ」
「まだ身体が弱っているんだから、当たり前だよ」
「でも、そのうち嫌になるかもしれない」
俺は彼女の肩を拭く手を止めた
「何もできないからって、君を追い出したりはしないよ。 治療だって途中でやめない」
「……本当?」
「本当だ。 君が俺を心配してくれたのも、嬉しかった。 今は、それで十分なんだよ」
エルザは少しの間、黙っていた
「そんなことで、いいの?」
「うん、それに、今は元気になることが一番だ」
「うん……」
エルザが小さく息を吐いた
俺は背中を拭き終え、新しいタオルを渡す
「あとは自分でできそう?」
「うん、できるよ」
「じゃあ、俺は後ろを向いているから」
「ハロルドなら、見ていてもいいよ」
「俺が落ち着かないんだよ」
エルザが小さく笑った
「変なの」
俺は背中を向けた
しばらくして、もういいよと声がする
「気分はどう?」
「さっぱりした。 ありがとう」
「それはよかった」
俺は桶とタオルを片づけた、食器もキッチンへ持っていき、水につける
ついでに洗面所へ行き、顔を洗った
鏡に映る俺は、確かにひどい顔だった
目の下が暗くなり、頬にも疲れが出ている
髭だけのせいではなさそうだが、それでも、せめて髭は剃っておこう
手早く髭を剃ってから寝室へ戻る
するとエルザは俺の顔を見つめて言った
「髭、剃ったんだね」
「エルザに酷い顔だと言われたからね。 少しでもよくしたくてさ」
「私が言ったのは、そういう意味じゃないんだけど……でも、そっちの方がかっこいい」
「ありがとう」
エルザは少し笑みを残したまま、枕の位置を直している
俺はベッドのそばに座った
「身体を拭こう。 昨日と同じで、自分でできるところは自分でやってくれていいから」
エルザは頷いた、服の前を開き、袖から腕を抜く
俺は大きなタオルを渡した
エルザはそれを身体の前へ当てて、背中をこちらへ向ける
俺は湯に浸したタオルを絞り、肩からそっと拭いた
昨日ついていた泥はもう残っていなかった
「痛くない?」
「うん」
エルザは小さく俯いていた
俺は背中を拭き、タオルをすすぐ
「ハロルド」
「どうした?」
「本当に……気にならないの?」
「何が?」
「こんな身体。 跡が残っても、気にしないって言ってくれたけど」
俺はタオルを絞る手を止めた
「ああ、本当だよ」
「ずっと、このままかもしれないのに?」
「きっと、今よりよくなる。 でも、跡が残ったとしても、そのことで嫌になったりはしないよ」
エルザは身体の前へ当てていたタオルを握り直した
「そういうの、男の人は嫌なんじゃないの?」
「嫌がる人もいるかもしれないね。 でも、俺だって人のことを言えないから」
「ハロルドは……醜くないよ」
彼女が振り返った
「髭は剃った方がいいけど」
俺は少し笑った
「そうだね、あとで剃ってくるよ。 エルザに嫌われたらしんどいからね」
エルザの頬が少し赤く染まった
「顔だって、悪くないと思う。 なんでそんなに、自分のことを悪く言うの?」
俺は返事に困った、そんなことを言われても
俺の経歴を聞いた途端、嫌な顔をされることには慣れてしまった
それに、服の中までは見えないから
「服で隠れてるけど、古傷があってね。 ちょっとだけ、見せてもいいかな」
俺は湯の桶を脇へ寄せ、上着のボタンを外した
右肩まで見えるように上着をずらすと、エルザの視線がそこへ移った
「……それ」
右胸から肩にかけて大きなやけどの跡がある
色の変わった皮膚が引きつれた、古い傷だった
もう痛みはないが、鏡で見れば自分でも醜いと思う
「昔……ひどいやけどを負ってね。 内戦が終わった頃のことだよ」
エルザはしばらく、その跡を見ていた
「魔法で治せないの?」
「この跡を消すのは難しいね。 これでも多少は見た目を良くする治療を受けたんだよ。 命が助かっただけで十分だと思ってる」
彼女がそっと手を伸ばした
途中で止めて、俺の顔を見る
「触ってもいい?」
「ああ、いいよ」
エルザの指先が、やけどの跡に触れた
冷たい指だった
彼女は指を滑らせることもなく、そのまま手のひらを置いた
「痛くない?」
「もう痛くないよ。 ずいぶん昔の傷だから」
エルザは頷いてから、俺を見上げる
「それじゃ、私たちお似合いだね」
彼女は少し笑った
「私も、気にならない。 醜いなんて、思わないよ」
俺はエルザの顔を見た
慰めようとして言ったようには見えなかった
そこに傷があることを確かめて
それでも構わないと、ただ言ってくれている
胸に置かれた手が、少しずつ温かくなってきた
俺は何も言えずにいた
この跡に、誰かがこうして手を置いたことはなかった
エルザがゆっくりと手を離す
「見せてくれて、ありがとう」
「いや……こちらこそ」
何に対して礼を言ったのか、自分でもすぐには説明できなかった
俺は上着のボタンを留めた
エルザもタオルを身体に当て直し、また背中をこちらへ向ける
「まだ、拭いてくれる?」
「もちろん」
俺はタオルを湯に浸した
温度が下がっていたので、少しだけ温め直す
それから背中の続きを拭いた
「私、なにかハロルドの役に立ちたい。 料理を覚えるし、掃除とか洗濯なら、できると思う」
「エルザが元気になったら、お願いすることもあるだろうね。 でも、今は休んでほしい」
「何もしないのって、落ち着かないの……」
エルザの声が少し小さくなった
「食べさせてもらって、寝かせてもらって、ずっと、ハロルドにお世話してもらってるだけ」
「まだ身体が弱っているんだから、当たり前だよ」
「でも、そのうち嫌になるかもしれない」
俺は彼女の肩を拭く手を止めた
「何もできないからって、君を追い出したりはしないよ。 治療だって途中でやめない」
「……本当?」
「本当だ。 君が俺を心配してくれたのも、嬉しかった。 今は、それで十分なんだよ」
エルザは少しの間、黙っていた
「そんなことで、いいの?」
「うん、それに、今は元気になることが一番だ」
「うん……」
エルザが小さく息を吐いた
俺は背中を拭き終え、新しいタオルを渡す
「あとは自分でできそう?」
「うん、できるよ」
「じゃあ、俺は後ろを向いているから」
「ハロルドなら、見ていてもいいよ」
「俺が落ち着かないんだよ」
エルザが小さく笑った
「変なの」
俺は背中を向けた
しばらくして、もういいよと声がする
「気分はどう?」
「さっぱりした。 ありがとう」
「それはよかった」
俺は桶とタオルを片づけた、食器もキッチンへ持っていき、水につける
ついでに洗面所へ行き、顔を洗った
鏡に映る俺は、確かにひどい顔だった
目の下が暗くなり、頬にも疲れが出ている
髭だけのせいではなさそうだが、それでも、せめて髭は剃っておこう
手早く髭を剃ってから寝室へ戻る
するとエルザは俺の顔を見つめて言った
「髭、剃ったんだね」
「エルザに酷い顔だと言われたからね。 少しでもよくしたくてさ」
「私が言ったのは、そういう意味じゃないんだけど……でも、そっちの方がかっこいい」
「ありがとう」
エルザは少し笑みを残したまま、枕の位置を直している
俺はベッドのそばに座った


