「ハロルド……」
遠くで誰かが俺を呼んでいる
「ねえ、ハロルド」
目を開けると、窓の隙間から朝の光が差し込んでいた
俺はソファーに横になっている
いつ眠ったのか、一瞬分からなかった
身体を起こそうとして、背中に痛みを感じる
変な姿勢で寝ていたらしい
「起きた?」
声のする方を見ると、エルザがベッドの上に座っていた
毛布を膝に掛けて、こちらを見ている
「おはよう……エルザ。 どうした? 苦しくないか?」
俺は慌てて起き上がった
身体が重い
それでも昨夜よりは、ずいぶんましだった
「ううん、ハロルド、ずっとうなされていたから心配になって。 起こしちゃってごめん」
「そうか、君はどう? 具合は?」
「昨日よりいいみたい。 でも、ハロルドは……昨日よりひどい顔だよ」
俺は頬をこすった、髭がずいぶん伸びている
「髭を剃ってないからね」
「それだけじゃないと思う。 ハロルドは無理して疲れてるよね?」
俺は両手で顔をこすってから立ち上がる
「大丈夫だよ、寝たから。 それより、水を飲もう」
「待って、ハロルドは休んで、私が持ってくる」
エルザが毛布を脇へ寄せた
ベッドの端へ身体を動かして、両足を下ろす
「エルザ、無理はしないで」
「もう平気だから」
そう言ってエルザは立ち上がろうとした
だが、すぐに膝から力が抜ける
俺は彼女の腕と背中を支えた
「あれ……」
エルザは俺の腕につかまったまま、自分の足を見下ろした
「まだ無理だったね。 急がなくていいから」
俺はそのまま彼女をベッドに座らせた
エルザは少しの間、黙っていた、それから小さく息を吐く
「ごめん、余計なことをして……」
「余計じゃないよ。 俺のことを心配してくれたんだろ? ありがとう」
エルザは顔を上げて俺を見た
「でも、何もできなかった」
「そういうことじゃないさ。 起こしてくれたじゃないか。 俺は朝が弱くてね、よく寝坊するんだよ。 そろそろ治療を再開しないといけないし、起こしてくれて助かった」
俺は水差しを手に取る、残っていた水は少なかった
「喉も渇いただろ? 新しい水と朝食を持ってくるよ」
エルザは悲しそうに俯いた
「うん……ごめんね……」
キッチンへ行き、手を洗う
リサちゃんからもらったスープがまだもう一食分ある
昨日は、このスープを飲んだら力が湧いてきた
エルザだって元気になった
きっと同じことになる
そうすれば……俺はまた戦える
俺はリサちゃんのスープを温めながら、水を煮沸してエルザが飲めるように準備する
パンも少しだけ多めに切った
エルザが食べるぶんと、俺が食べるぶん
きっとエルザは昨日より食べてくれるはずだ
俺は鍋の火を止めた
温めたスープとパン、そして水を入れたコップを盆に載せて寝室へ戻る
「お待たせ」
エルザはベッドに座ったまま、窓の外を見ていた
俺に気づくと、こちらへ顔を向ける
「いい匂い」
「今日もリサのスープだからね。 名残惜しいけど、これで最後だよ」
「私はハロルドの作ったスープも食べたいよ」
「ありがとう……そう言ってもらえるのは嬉しいよ」
俺は盆を椅子に置き、エルザへコップを渡した
彼女が両手で持ってゆっくりと飲み終えるのを待ち、スープの器と取り替える
「ハロルドのは?」
「あちらに用意してあるよ」
「一緒に……食べてくれないの?」
「君が食べ終わったら、身体を拭こうと思ってね。 お湯を用意してくる」
「それなら……あとでいいよ」
エルザはスプーンを持ったまま俺を見る
「ハロルドは……私のことばっかりだね」
「エルザは病人なんだから当然だろ」
「でも、ハロルドまで病気になったら困るでしょ?」
それはその通りだった
俺こそ無理してはいけない
「分かった。 じゃあ、俺のも持ってくるよ」
俺は自分のスープとパンを持ってきて、ベッドのそばに椅子を寄せた
エルザは俺が座るまで、食事に手を付けずに待っていた
「先に食べていてよかったのに」
「一緒に食べたかったから」
彼女は手を合わせた
昨日と同じように、天使様へお祈りをする
俺も手を合わせると、二人の声が重なった
「いただきます」
「いただきます」
スープを一口飲む
やはり、リサちゃんのスープは美味い、力が湧いてくる気がした
エルザはパンをスープに浸して大きな口を開けて食べた
そしてゆっくり噛んでいる
「食べられそう? 無理に食べてはだめだよ?」
「うん、昨日よりお腹が空く。 食べないと、治るものも治らないから」
「それはいいことだね」
恨めしそうにエルザが俺を見ている
「どうしたの? エルザ」
「無理をしているのはハロルドでしょ?」
「え?」
「私のせいだけど……せめてきちんと食べて……きちんと寝てよ……」
「あ、ああ、大丈夫だよ」
そう言いながら、俺は彼女の顔を見る
まだ発疹が残って頬も痩せている
人の心配など、できる状態ではない
それでも、この子は俺の心配などしている
「何?」
「いや……なんでもないよ」
俺に見られていたことが気になったのか、エルザは自分の腕へ目を落とした
袖口から見える斑点を、指先でそっとなぞる
「これ、消えるのかな」
「病気を治して、ちゃんと食べて、身体が元気になれば、少しずつ戻るよ」
「元に戻らなかったら?」
エルザが俺を見る、その目には不安が見えた
「その時は、その時だよ。 少なくとも俺は気にしない」
彼女は何も言わず、またパンをスープに浸した
俺も自分の食事を続ける
しばらく、スプーンが器に触れる音だけがした
遠くで誰かが俺を呼んでいる
「ねえ、ハロルド」
目を開けると、窓の隙間から朝の光が差し込んでいた
俺はソファーに横になっている
いつ眠ったのか、一瞬分からなかった
身体を起こそうとして、背中に痛みを感じる
変な姿勢で寝ていたらしい
「起きた?」
声のする方を見ると、エルザがベッドの上に座っていた
毛布を膝に掛けて、こちらを見ている
「おはよう……エルザ。 どうした? 苦しくないか?」
俺は慌てて起き上がった
身体が重い
それでも昨夜よりは、ずいぶんましだった
「ううん、ハロルド、ずっとうなされていたから心配になって。 起こしちゃってごめん」
「そうか、君はどう? 具合は?」
「昨日よりいいみたい。 でも、ハロルドは……昨日よりひどい顔だよ」
俺は頬をこすった、髭がずいぶん伸びている
「髭を剃ってないからね」
「それだけじゃないと思う。 ハロルドは無理して疲れてるよね?」
俺は両手で顔をこすってから立ち上がる
「大丈夫だよ、寝たから。 それより、水を飲もう」
「待って、ハロルドは休んで、私が持ってくる」
エルザが毛布を脇へ寄せた
ベッドの端へ身体を動かして、両足を下ろす
「エルザ、無理はしないで」
「もう平気だから」
そう言ってエルザは立ち上がろうとした
だが、すぐに膝から力が抜ける
俺は彼女の腕と背中を支えた
「あれ……」
エルザは俺の腕につかまったまま、自分の足を見下ろした
「まだ無理だったね。 急がなくていいから」
俺はそのまま彼女をベッドに座らせた
エルザは少しの間、黙っていた、それから小さく息を吐く
「ごめん、余計なことをして……」
「余計じゃないよ。 俺のことを心配してくれたんだろ? ありがとう」
エルザは顔を上げて俺を見た
「でも、何もできなかった」
「そういうことじゃないさ。 起こしてくれたじゃないか。 俺は朝が弱くてね、よく寝坊するんだよ。 そろそろ治療を再開しないといけないし、起こしてくれて助かった」
俺は水差しを手に取る、残っていた水は少なかった
「喉も渇いただろ? 新しい水と朝食を持ってくるよ」
エルザは悲しそうに俯いた
「うん……ごめんね……」
キッチンへ行き、手を洗う
リサちゃんからもらったスープがまだもう一食分ある
昨日は、このスープを飲んだら力が湧いてきた
エルザだって元気になった
きっと同じことになる
そうすれば……俺はまた戦える
俺はリサちゃんのスープを温めながら、水を煮沸してエルザが飲めるように準備する
パンも少しだけ多めに切った
エルザが食べるぶんと、俺が食べるぶん
きっとエルザは昨日より食べてくれるはずだ
俺は鍋の火を止めた
温めたスープとパン、そして水を入れたコップを盆に載せて寝室へ戻る
「お待たせ」
エルザはベッドに座ったまま、窓の外を見ていた
俺に気づくと、こちらへ顔を向ける
「いい匂い」
「今日もリサのスープだからね。 名残惜しいけど、これで最後だよ」
「私はハロルドの作ったスープも食べたいよ」
「ありがとう……そう言ってもらえるのは嬉しいよ」
俺は盆を椅子に置き、エルザへコップを渡した
彼女が両手で持ってゆっくりと飲み終えるのを待ち、スープの器と取り替える
「ハロルドのは?」
「あちらに用意してあるよ」
「一緒に……食べてくれないの?」
「君が食べ終わったら、身体を拭こうと思ってね。 お湯を用意してくる」
「それなら……あとでいいよ」
エルザはスプーンを持ったまま俺を見る
「ハロルドは……私のことばっかりだね」
「エルザは病人なんだから当然だろ」
「でも、ハロルドまで病気になったら困るでしょ?」
それはその通りだった
俺こそ無理してはいけない
「分かった。 じゃあ、俺のも持ってくるよ」
俺は自分のスープとパンを持ってきて、ベッドのそばに椅子を寄せた
エルザは俺が座るまで、食事に手を付けずに待っていた
「先に食べていてよかったのに」
「一緒に食べたかったから」
彼女は手を合わせた
昨日と同じように、天使様へお祈りをする
俺も手を合わせると、二人の声が重なった
「いただきます」
「いただきます」
スープを一口飲む
やはり、リサちゃんのスープは美味い、力が湧いてくる気がした
エルザはパンをスープに浸して大きな口を開けて食べた
そしてゆっくり噛んでいる
「食べられそう? 無理に食べてはだめだよ?」
「うん、昨日よりお腹が空く。 食べないと、治るものも治らないから」
「それはいいことだね」
恨めしそうにエルザが俺を見ている
「どうしたの? エルザ」
「無理をしているのはハロルドでしょ?」
「え?」
「私のせいだけど……せめてきちんと食べて……きちんと寝てよ……」
「あ、ああ、大丈夫だよ」
そう言いながら、俺は彼女の顔を見る
まだ発疹が残って頬も痩せている
人の心配など、できる状態ではない
それでも、この子は俺の心配などしている
「何?」
「いや……なんでもないよ」
俺に見られていたことが気になったのか、エルザは自分の腕へ目を落とした
袖口から見える斑点を、指先でそっとなぞる
「これ、消えるのかな」
「病気を治して、ちゃんと食べて、身体が元気になれば、少しずつ戻るよ」
「元に戻らなかったら?」
エルザが俺を見る、その目には不安が見えた
「その時は、その時だよ。 少なくとも俺は気にしない」
彼女は何も言わず、またパンをスープに浸した
俺も自分の食事を続ける
しばらく、スプーンが器に触れる音だけがした


