寂しがりな君には真っ赤な果実をあげる

「ももぉ、ミキちゃんて、誰のこと?」



あくまで笑顔は忘れずに。



甘ったるくて、毒気を孕んだ声が、驚くほど自然に出てくる。



私の目は蛇みたいに、悪戯が成功したものの、大好きなお母さんを想像よりも遥かに怒らせてしまった子供のように、緊張と心細さを湛えながらも、一方で風船みたいに膨らんでいく被虐的な期待を隠せない目の前の彼を捕らえて離さなかった。



瞳孔が開いたももの瞳に映った私は、人形みたいに怖い顔をしていた。



「猫だよ」



こうなった私相手に攻防は無理だと降伏したのか、目を逸らさずに、じっと見つめたまま答える。



救いを乞うような、不安げに揺れた声で。



これからだよ、私は心の中で呟いた。



「猫ちゃん? はは、ももは、その子のことが好きなんだね。なんだかとっても楽しそう」



「うん。でも、僕は柘榴の方がずっとずっと楽しいよ」



甘えと焦りが入り交じった声で、必死に弁解して私の方をとろうとする。



ももの方が三センチ程高いのを、わざと猫背になって姿勢を低くして、上目遣いで憐れみと愛を乞う。



それでも、ももは馴れ馴れしくない。



自分から、擦り寄ったりしない。



ももの欲望は、私が飼い慣らしているから。



「そうなの? じゃ、私も楽しいことしたい。ももが猫ちゃんになってよ」



「ぼ、僕?」



きょとんとするももの肩をそっと押して床に優しく倒し、指先で脇腹を擽った。



「ざくろ……擽ったい!」



「こら、猫ちゃんは人間の言葉なんて喋らないでしょ」



ももは顔を真っ赤にして困ったように眉を下げる。



しばらくは鳴くまいと、くぐもった声を漏らしていたが、やがて、かつて路地裏で見かけた猫みたいに、甲高い声に変わっていった。



私の下でじたばたと暴れて、捲れ上ったベビーピンクのスカートから青白く細い足が飛び出す。



擽る手は止めずにそれをそっと整えてあげる際、ももの滑らかな肌に私の指先が触れ、僅かにわなないていたのを、見逃さない。



"私のワンピースなんだから"と心の中でボヤいた。



すっかりももの反応に夢中になっていると突然、ガリ! という乾いた音と共に鋭い痛みが走る。



我に返って探ってみると、私の二の腕に、爪で引っ掻いたような、二筋の傷が出来ていた。



ももは怯えた顔をしていて、震えている右手の爪には真っ赤な血を付けている。



「っ柘榴が悪いの……急に、こんなことするから」



怪我をさせられたのは私なのに、言い訳をして、私に責任転嫁するももに、今度は本気で苛立った。



私のせい? 違う……ももが私を煽ったから。悪いのは、ももなのに。ちゃんと、悪いことしたって、わからせてあげなくちゃ。



「痛いよ、もも。舐めて、私の血。全部」



「え、柘榴、怒っちゃった……? 僕、嫉妬させたかっただけなんだよ。ただ、柘榴のこころ、乱してみたかったの」



"いつも、僕ばっかりだから"、なんて、ももは泣きそうになって、小綺麗な顔を歪ませながら、鼻水でぐずぐずになりながらおろおろと私に縋り付く。



でも、いつも乱されているのは私だよ、もも。



可愛いもも、悪戯っ子で憎たらしいもも、私がいなきゃ生きていけなくなればいいのに。