寂しがりな君には真っ赤な果実をあげる

「あのね、柘榴」



急に、私のワンピースの裾を握り締め、何か言いたそうにして口を噤んでいるもも。



言葉を促すように首を傾げると、



「なんでもなーい」



と、慌てるように誤魔化し、この間買ったばかりの座椅子に体育座りして痣の目立つ膝に顔を埋めた。



「歯磨きしてないでしょ? 私がしてあげる」



彼が何を言いたいのか気になったけれど、こういうぐずぐずとした態度をとるのはよくあることなので、後で探ってみることにした。



何でもないように声を掛けると、ももは顔を上げて頷き、咥えている飴をぼりぼりと音を立てて噛み砕き、口から無くしてしまった。



そして残った棒を口から取り出し、側にあったごみ箱に放り込んだ。



私は歯ブラシ立てから黄緑色の歯ブラシを取り、粘土のような、微妙な色の歯磨き粉を少しつけ、ももの前に足を崩して座る。



「ほら、あーして」



ももは歯磨きしやすいように小さな口を大きく開けて、私に言われた通りにあーとくぐもった声を出した。



左側の奥歯から一本ずつ、ゆっくりと滑らせ往復していく。



やがて唾液と歯磨き粉が混ざりあって泡立っていくのがわかった。



小気味よい音が口内に響く。



「虫歯……」



ももの歯の一本一本の凹凸や尖りを観察しながら磨いていく。



所々がたついていて、夜、歯を食いしばって寝ているももが思い起こされた。



そんなことを考えていると、奥に一部、黒っぽく変色した歯を発見する。



「歯ァ痛いかも」



「こりゃ歯医者さん行きだね」



目の前にいる彼が"歯医者さん"という言葉に反応し口を開けたまま、あからさまに顔を顰めるので、変な顔になりつい笑ってしまう。



その拍子に、唾液と混ざって白く泡立った歯磨き粉が口からとろりと垂れる。



それを側にあったティッシュ箱から一枚取り出して涙を拭くように優しく拭き取り、ずっと頭にあったことを聞いてみる。



「ももは可愛いね。ね、さっきの、何のお唄?」



「パラジウムとアーモンドの唄!」



「そっか、ももはお唄まで可愛いんだね。私、好きだよ」



ぱっと顔を明るくし、機嫌良く答えるももに微笑み、その後も、甘やかすように優しく、丁寧に磨いていき、最後にうがいをさせて終わり。



口の中を水で濯ぎ、吐き出す音が、何だか心地いい。



すっきりしたももは口寂しいのか、飴、歯ブラシの次は、シャボン玉で遊び始めた。



煙草じゃないだけ、良い。



「吸っちゃダメだよ」



優しく注意する私に、ももは曖昧な笑みで頷いた。



吹き具を、小皿に注がれた水溶液に大雑把に、でも執拗につけ、そっと小さな口に運び、静かに吹く。



水溶液がいくつものシャボン玉になって放出され、淡く煌めく。



こんな仕草にも彼らしさが覗いて、苦しいくらいに甘い気持ちが、心にそっと染みた。