寂しがりな君には真っ赤な果実をあげる

七月の蒸し暑い日の夕暮れ、大学から徒歩二十分、築四十年のボロアパートに帰宅し、二〇五号室のぺールグリーンの塗装が剥がれかかった扉を開くと、玄関にあの子のサンダルが散らかっていた。



(もも、帰ってきてる。)



まるで一滴の波紋を落とすように、胸に喜びが広がっていく。



口角が僅かに上がるのを抑えきれず、お気に入りのウッドソールのミュールを脱いでいると、奥の方からとても小さな声でメロディが聞こえてくる。



不安定で、奇妙。



異空間に迷い込んでしまったような気持ち、不安になりそう。



それなのに、可愛らしさも感じる。



ボロアパートの一室で、独りこんな狂った旋律を奏でる。



そんな者はあの子しかいない。



もも……私の恋人。



私は何だかおかしさと愛おしさが込み上げてきて、くすりと笑う。



うきうきと楽しげに、スカートを翻して、声の方へつられて足を進めていく。



声が近づくにつれ、私は急に足の速度を遅らせ、足音を立てないように慎重に歩く。



なんだか、少しでも騒がしくしたら、メロディが止んでしまう気がしたから。