海沿いの古工場と猫

 それから、椅子の横でしゃがんで、大福とじゃれ合って遊んでいると、近くで黒瀬さんがご飯を食べ始めた。

「お前、猫好きなのか?」

「一緒に暮らしてみたいんですけど、まだ……」

 尋ねられたことに答えながら、大福を抱き上げて、体の長さを見たりしていた。

 すると、黒瀬さんが、ご飯を食べながら、こちらに話し掛けてきた。

「大福、連れてってもいいぞ」

「いや、さすがにそれは……」

 軽く言われ、そう返してはみたものの、そこから会話が始まった。

「暮らしてぇなら、いいだろ」

「でも……」

 そこで大福を地面に置くと、大福は椅子の方に向かって行った。

「大福も懐いてるみてぇだし、ちょうどいいんじゃねぇの」

「そう言われても……」

 一緒に暮らしても生活はしていけるけれど、先を考えると、躊躇った。

「なんだよ、はっきりしねぇな」黒瀬さんが言ったあと、煙草に火を点けると、匂いが漂ってきた。

 おもむろに立ち上がってみると、黒瀬さんは気怠そうに、椅子に背中を預けていた。

 それでも私は言った。

「ここに来たら、会えるし、大福もここが好きだと思うので……」

 話の途中で黒瀬さんはこちらに顔を向け、目を丸くさせていた。

 何か変なことを口にしたのかと、様子を窺っていたら、黒瀬さんが言った。

「……あ、そう。別にいいけど、今日みたいな日に来んな」

「はい。そうします」そう答えたところで、踵を返そうとした、その時だった。

「帰んのか?」低い声が聞こえ、「はい」と返すと、「車どうすんだよ」と聞かれ、その場で立ち止まってしまった。

「あとで取りに来ます。お金を持って……」と返してみると、軽い舌打ちが聞こえた。

 思わず鼻が膨らみ、咄嗟に鼻を拭うふりをして誤魔化した。

「あ、そう。じゃあ、そこに座ってろ。もうすぐ晴れてくるから、大福と遊んでやれ」

 黒瀬さんはそう言って、軍手をはめながら、腰を上げ、車に向かって行った。

 そして、車の下へ滑り込み、作業を始めたようだった。

 その様子を窺いながら、帰ろうとは思えず、椅子に座った。すかさず大福が太ももの上に乗ってきて、身体を伸ばしたあとで、前足を仕舞った。

 重しを乗せられたような状態で、動けなくなり、少し背中を預けて、海辺を眺めていた。