ようやく工場が見えて来たとき、肌が潮風でベタついているような気がした。ビニール袋を飛ばされないように抱えながら、工場に着いてみると、黒瀬さんは車の下に潜り込んでいた。
そこで耳を澄ますと、今日は違う曲が微かに聞こえてきた。
穏やかな波に似たピアノの調べ、夜想曲が静かに流れている。ふと視線を椅子に向けると、大福が丸まって寝ていた。思わず目尻を下げたあとで、視線を戻すと、黒瀬さんが立っていた。
「お前、何してんだよ」
「何って、ご飯を届けに、来ました」
黒瀬さんの顔はとても険しくて、驚いたあまり、ついそう返していた。
黒瀬さんは何も答えずに、一度こちらを見てから、軍手を外していた。
「そこで待ってろ、飯はそのまま置いとけ」そう言って、黒瀬さんは奥のほうに進んで行った。
違う言い方があるんじゃないかと思いながらも、テーブルの上にビニール袋を静かに置いた。
少ししてから、黒瀬さんが向かってきて、こちらにタオルを差し出してきた。その手は少し濡れているようだった。
「ありがとうございます」と言ってから受け取ると温かくて、思わず黒瀬さんに視線を向けた。
「なんだよ。早く拭かねぇと、冷たくなるぞ」黒瀬さんはそう言って、視線を逸らし、ポケットから煙草を取り出した。
私は肌を拭きながら、黒瀬さんの様子を窺った。煙草を口にして、火を点けてから、白い煙を横に向いて吐き出していた。
煙を吐いているだけなのに、黒瀬さんは眉を寄せ、こちらを見たり、どこかを見たりしていた。そして、おもむろに口を開いた。
「車、持っていけよ。つーか、大事にしてんだな……」低い声と共に、強い潮風が吹き抜けた。
「それほどでも……。というか、お金を持って来てないので……」そう返してみると、黒瀬さんは言った。
「走行距離はとんでもねぇけど、エンジンはイカれてねぇし、清掃と部品の交換だけで済んだ。見積もりより安くしとく。二万円ってとこだな……」
その言葉に少し心が軽くなり、黒瀬さんの視線が愛車に向けられた。
私も同じように愛車へ目を向けたけれど、ふと黒瀬さんを見ると、優しい目をしている気がした。
そこで耳を澄ますと、今日は違う曲が微かに聞こえてきた。
穏やかな波に似たピアノの調べ、夜想曲が静かに流れている。ふと視線を椅子に向けると、大福が丸まって寝ていた。思わず目尻を下げたあとで、視線を戻すと、黒瀬さんが立っていた。
「お前、何してんだよ」
「何って、ご飯を届けに、来ました」
黒瀬さんの顔はとても険しくて、驚いたあまり、ついそう返していた。
黒瀬さんは何も答えずに、一度こちらを見てから、軍手を外していた。
「そこで待ってろ、飯はそのまま置いとけ」そう言って、黒瀬さんは奥のほうに進んで行った。
違う言い方があるんじゃないかと思いながらも、テーブルの上にビニール袋を静かに置いた。
少ししてから、黒瀬さんが向かってきて、こちらにタオルを差し出してきた。その手は少し濡れているようだった。
「ありがとうございます」と言ってから受け取ると温かくて、思わず黒瀬さんに視線を向けた。
「なんだよ。早く拭かねぇと、冷たくなるぞ」黒瀬さんはそう言って、視線を逸らし、ポケットから煙草を取り出した。
私は肌を拭きながら、黒瀬さんの様子を窺った。煙草を口にして、火を点けてから、白い煙を横に向いて吐き出していた。
煙を吐いているだけなのに、黒瀬さんは眉を寄せ、こちらを見たり、どこかを見たりしていた。そして、おもむろに口を開いた。
「車、持っていけよ。つーか、大事にしてんだな……」低い声と共に、強い潮風が吹き抜けた。
「それほどでも……。というか、お金を持って来てないので……」そう返してみると、黒瀬さんは言った。
「走行距離はとんでもねぇけど、エンジンはイカれてねぇし、清掃と部品の交換だけで済んだ。見積もりより安くしとく。二万円ってとこだな……」
その言葉に少し心が軽くなり、黒瀬さんの視線が愛車に向けられた。
私も同じように愛車へ目を向けたけれど、ふと黒瀬さんを見ると、優しい目をしている気がした。



