天才料理少女は、恋のレシピを知らない

次の日。改札に久保田兄弟はいなかった。

ほっとして、改札を通ってホームに行くと、泣きそうな顔をした律くんにつかまってしまった。

「ごめん。話だけでも聞いて欲しい」

自分より小さい律くんにそこまで言われて、仕方なくホームの端っこにあるベンチに二人で座る。

「突然、声をかけてごめんなさい」
「……はい」

いや、一番の問題は声かけじゃない。
動画を見せてきたことだ。

突然「これ、あなただよね?」って怖くない?
ホラーだよ。

文句を言いたいけど、年上なので大人になって黙る。

「マリーは、俺たち兄弟にとって大事な場所で」
「マリー?」

突然、話が変わった。
この子、せっかちすぎない?

「喫茶店の名前」
ああ、昨日言ってた、二人のおばあちゃんがしていたお店のことか。

「小学校が終わったら、放課後はいつもマリーですごしてたんだ。兄ちゃん、マリーが閉店したときも寂しそうだったけど、取り壊しが決まってから元気がなくて」

久保田先輩のことは全然知らない。
でも、昨日はずっとにこやかに笑っていた。

あれは、表向きの顔だったのかな。
辛い気持ちを隠しての笑顔なのだとしたら、それはちょっと切ない。

「イベントに、料理なしの飲み物だけで参加することも考えたんだけど、それだとマリーじゃない。俺が作ろうかと思って練習してみたんだけど、あと3カ月ちょっとで人に出せるものを作れる気もしなくて」

お兄ちゃん思いで、優しいな。
でも……。

「お父さん・お母さんに頼むのは?」
「うちの両親、共働きでものすごく忙しくて」

我が家も共働きなので、私が律くんと同じ状況だったら頼めないかもしれない。

「じゃあ友達に」
「……料理を頼みたいのは、誰でもいいわけじゃないんだ」

だからって、顔も知らなかった私にどうして頼むの?