「じゃあ、転校生さん。入ってきてくれー。」
先生の声が聞こえて、教室の扉を開ける。
――いたって普通の教室。
そこにいたのはいろいろな姿かたちの人たちだった。
色鮮やかなつの、様々な形の耳、しなやかな尻尾。
(…!?…これって…。)
見渡す限り、20人以上の人たち。
そのほぼ全員に、人間にはない特徴があるみたいだった。
『…え、珍しい?ここって人間も通える学園、でしたよね…?』
『そうだけど、基本的に人外ばっかりだよ。好んで人外に近づく人は少ないからね?』
神天さんが言っていたことを目の当たりにした。
視線が突き刺さる。
「えっと…甘雨 志乃です。人間…です。よろしくお願いしますっ…!」
「じゃあ、甘雨さんの席は窓際の、隣が今空いている席で――」
「わかりましたっ…!」
それだけ聞いて、逃げるように席についた。
――視線が、やっぱりどうしても怖い。
前の学校でのことを思い出してしまって、少しだけ涙がこぼれかけた。
生徒の騒ぎ始める声、椅子を引くガタガタという音が聞こえだす。
怖くて、うつむいたまま顔を上げることができなかった。
先生の声がものすごく遠く聞こえる。
多分、ホームルームは終わりです、10分後に数学の授業の準備をして、って――
「転校生!」
後ろから呼ぶ声が聞こえた。
慌てて視線を移すと。
「大丈夫?気分悪いのか?」
後ろの席の、緑髪のツノの生えた男の子がそう言った。
うつむいていたから、体調不良か何かに見えたのだろう。
「あ…だいじょう、ぶ…!」
「…なら、いいけど!」
その子は、人懐っこい笑みをうかべた。
「おれは竜宮 風斗!風斗って呼んで!」
「志乃です!よろしくね…風斗、くん…!」
にかっと効果音がつきそうな、満面の笑み。
近くの人が優しそうでよかったと第一に思えた。
「俺は風属性の竜なんだ!人間って珍しくない?なんでこの学校に来たの!?」
「え、っえぇ…っと…!?」
「風。ちょっと質問攻めしすぎでーす。」
前の席の子が、振り返って言った。
――大きな兎の耳が、ぴくりと動く。
「はー!?珍しい人間の転校生だぞ!?気になるだろーが!」
「せめてオブラートに包みなー?怖いって…。」
はぁ、とため息をついてこっちに向いた兎耳の子。
「風がごめんね?ボクは兎の獣人の兎月 十輪。よろしくねー?」
のんびりとした口調でそう言った。
「よろしくね…!十輪くん!」
「んー、じゃあ志乃ちゃんって呼ぶねー?」
「うん…!」
優しそうな子でよかった、と安堵したとき。
窓が閉まっている室内でひゅう、と風が吹いて、十輪くんの耳を揺らした。
見ると、風斗くんが手のひらを十輪くんに向けていた。
能力か何かを使ったのかもしれない。
「おーい!俺仲間外れにすんなってぇ!」
「はーうるさい。いきなり割り込んできて声でかい!風も嫌!兎の耳は敏感なのー!!」
「はぁー!?いつもお前足ダンダンしてるじゃねーか!それが一番うるせーよ!!」
「風の声よりまし!それよりそっちだって――!」
(け、喧嘩するほど仲がいいって感じなのかなっ…。)
周りの人も、気にとめることなく流している。
止めるべきなのかな、と考えたとき。
「――おい!いつもの2人うるさいぞー止めてやれー」
「はーい。ほら2人とも?転校生ちゃんが戸惑っちゃってるって。」
先生の忠告で喧嘩(?)を止めたのは、長身で、赤茶色の髪の男の子。
2人の首根っこをつかんだまま、にっこりと笑顔を浮かべてこっちを見た。
「2人がごめんね?いつもこんな感じなんだよね。困った人たちだよほんと…。」
「痛いー!そこつかまないでよ!」
「おい!離せ…!」
「教室で暴れたらダメだって何回言ったらわかるの?」
結構長身な風斗くんすらも、じたばたと手足を振り回して抵抗できないようだった。
「えーっと。自己紹介まだだっけか。僕は闇夜 月緋。志乃ちゃんだっけ?よろしくね」
「あ…よ、ろしくお願いします…!」
「敬語いらないよ?同級生だし。」
あははと笑った月緋くん。
(首根っこつかんじゃってるけどっ…!怖い人、ではないのかな…?)
はぁとため息をついた月緋くんは、やっと2人をつかむ手を放してあげた。
そして目を細めて言った。
「――喧嘩ならちゃんと、体育館か裏庭でやりなよ。」
ゾッとするほど低い声。
2人もそれを聞いて、素直にはぁいと返事をしている。
みんなの目は、全く笑っていなかった。
(っ…!前言撤回!ダメだ、危険人物だらけだったよっ…!)
