バツイチだけど恋をしてもいいですか

 課長はそんな会話をしながら、おじいさんのほうへと歩いていく。コツコツという靴音が背後で響き、心臓が大きく跳びはねる。

 店主のおじいさんと親し気に会話をしているということは、神崎課長はもしかして……。

 そんなことを考えていると、花音が私のことを見て不思議そうに首をかしげた。

「ママ、どうしたの?」

 テーブルの影に隠れたまま、「……な、なんでもないからっ」と小声で言い首を横に振る。

 私の必死な様子に、花音があたりを見回す。そして「あっ」と声を上げた。

「おにのひと!」

 花音は明るい声でそう言うと、小さな指で神崎課長のいるほうを指さす。

 か、花音……っ、勘弁して……!

 心の中で悲鳴を上げると同時に、靴音がぴたりと止まった。

「……鬼の人?」

 低い声が響く。

 心臓が破裂しそうなほど大きな音を立てて跳ね上がった。

「それは、俺のことか?」
「うん。ママがまえも、かいしゃのこわいひとだって、かくれてた」

 花音の無邪気な言葉を聞いて、「ひぇ……」と血の気が引いた。

 そんなことを言ったら、ここに私が隠れていることがバレてしまう。