バツイチだけど恋をしてもいいですか

 そんなことを考えていると、「遅かったな、亘一」と声をかけられた。

 振り返ると、ねずみ色のエプロンをつけた老人が俺に向かって笑いかける。

「つまらない用件で呼び出さないでくれと言っているだろう。俺は仕事が忙しいんだ」

 俺の言葉に、「つまらないとはなんだ」とおっとりとした口調で返す。

「どうせ仕事人間のお前は、今日も残業していたんだろう? 孫を心配して声をかけてやってるんだ。優しい祖父に感謝しなさい」
「心配って。俺を何歳だと思っているんだ」

 顔をしかめると、祖父は「まあまあ」とのん気に笑った。

 この老人――神崎誠一郎は、『セイイチマート』のオーナーであり、俺の祖父だ。いつも飄々としていて、孫の俺から見てもなにを考えているのかわからない人物だ。

「前から言っているが、こんな古びた個人商店を続けるより、建物を取り壊してマンションにでもしたほうが、遥かに利益率が高い。じいさんもいい年なんだから――」

 俺がいつものように説得を始めると、祖父は「またその話か」と肩をすくめた。

「亘一。儲けよりも、大切なものがあるんだよ」
「たとえば?」