バツイチだけど恋をしてもいいですか

 子育てをしていると、予定外のことが頻繁に起きる。仕事と育児をひとりでこなす日々は、まるで毎日綱渡りをしているようだ。

 大変だけど、これは自分で選んだことなんだから、頑張らなきゃ。

 そう思いながらフロアに入ると、神崎課長の姿を見つけた。

 まだ早い時間なのに、彼は席に着きディスプレイを見つめている。

 朝一だというのに気だるい気配の一切ない凛とした横顔。しわひとつない白いシャツに首もとまで締められたネクタイ、きちんとセットされた黒い髪。神崎課長は今日も隙がなく完璧だ。

 そんな姿を見て、先週彼から言われた『迷惑でしかない』という言葉を思い出す。思わず体が強張り、気まずさで視線をそらしたくなる。

 けれど私は勇気を出して、彼のデスクに近づいた。

「神崎課長」

 声をかけると、課長の視線がディスプレイから私に向けられた。

「あの、金曜はすみませんでした」

 緊張しながら頭を下げる。課長は表情を変えずに、「謝罪は不要だ」と短く言った。その声は低く、無感情に響く。

 終わったことをわざわざ蒸し返して謝るなんて、迷惑だと思われただろうか。