2静かなフロアで 神崎side
フロアに残っているのは、もう自分だけだった。
静まり返ったオフィスに響く空調の音が、やけに大きく聞こえる。
ディスプレイに映っているのは取引先の企業から提出された、英文の契約書。それを日本語版と比較しながら、齟齬のないようチェックしていく。
集中しているつもりなのに、ふと部下の中里愛美の顔が頭に浮かんだ。
やけに焦った様子で残業をしているなと思い彼女の手もとを見てみれば、まったく急ぐ必要のない書類を打ち込んでいた。誰かに今日中にするようにと頼まれたらしい。
金曜の夜にわざわざそんなことをさせるなんて、嫌がらせだとしか思えない。
なぜ中里は、無茶な仕事を押し付けられたことを誰にも相談しなかったんだろう。
詳しく事情を聞こうとすると、彼女は言葉を濁した。不利益を被っている側なのに、相手を庇おうとする彼女が理解できなかった。
そんなことを考えていると、「まだ仕事してんのかよ」と背後から声をかけられた。



