バツイチだけど恋をしてもいいですか

 同僚に話しかけられた中里が、「なんでもないです」と大きく首を横に振った。その取り乱しようを見て、思わず額に手を当てた。

「……勘弁してくれ」

 目が合っただけで真っ赤になるなんて、かわいすぎるだろ。

 表向きは冷静な表情を浮かべながら、心の中で悶絶する。

 そして彼女のささいな反応に、いちいち浮足立つ自分にもため息をつく。

 いい大人なのに、こんなことで浮かれてしまうなんて。中学生にさえ笑われてしまいそうなほどの純情っぷりだ。

 沢辺は彼女のもとを去ったけれど、表面上は俺たちの関係に変化はなかった。会社では上司と部下として接し、スーパーで顔を合わせれば挨拶をして会話をする、以前と変わらぬ距離感のまま。

 彼女が母親であることを第一に考え、恋愛をすることに慎重になっているのは痛いほどわかっていた。だから俺も、焦って答えを求めるようなことはしないと心に決めている。

 お互い三十代。自分たちの感情だけで関係を進められるほど若くはないし、年を重ねた分責任の重みも増えていく。