バツイチだけど恋をしてもいいですか

 声をかけられ顔を上げると、お気に入りのイルカのぬいぐるみを持った花音が立っていた。

「どうしたの?」
「あしたもおじいちゃんのおみせ、いっちゃだめなの?」

 その問いかけに、思わず手が止まる。

 花音には毎日のように『おじいちゃんのおみせにいきたい』と言われていた。だけど、時間がないからとか、ほかのお店で買いたいものがあるからとか、いろいろな口実を見つけ行かないようにしていた。

 あのお店に行けば、課長と顔を合わせてしまうかもしれないから。

「うん。明日もいけないかな」

 私の答えを聞いた花音は、しょんぼりした表情でイルカのぬいぐるみに顔をうずめる。

「おえかき、したかったのに……」

 悲しそうな花音を見て、心が痛んだ。

「ごめんね、花音」
「どうしておみせにいっちゃいけないの?」
「それは……」
「かんざきさんには、いつあえる?」

 まっすぐな瞳に見つめられ、言葉に詰まる。

 課長にあんなにお世話になっておきながら、私は理由も告げずに退職願を出した。恩知らずで無責任な私に、課長は失望したに違いない。

「……神崎課長には、もう会えないの」