バツイチだけど恋をしてもいいですか

「本当の理由を話してくれ」

 懇願するように彼女を見つめる。

 けれど中里は頑なに口を閉ざし、うつむいたまま首を横に振るだけだった。

 俺はなんの役にも立てないんだろうか。そう思いながら彼女を見つめる。

 膝の上で握りしめられた彼女の手が、小さく震えていることに気付いた。その怯えた様子に確信が生まれる。

 この退職願は、彼女自身の意志じゃない。なにか理由があって、会社を辞めるしかない状況に追い込まれているんだ。

「これは、俺が預かっておく」

 そう言って、封筒を手に取った。

「君が納得できる理由を話してくれるまでは、受理しない」

 ポケットにしまいながらそう言うと、中里は焦った表情で俺を見上げる。

「でも、私が会社を辞めないと――」
「辞めないと?」

 言いかけた言葉を繰り返すと、中里ははっとしたように口を閉ざした。

「……なんでもありません」

 そう言って首を横に振った彼女を、もどかしい気持ちで見つめた。






 中里の退職願をポケットに入れたまま、社内の廊下を歩いていると、非常階段のほうからタバコの煙が流れてきた。