バツイチだけど恋をしてもいいですか

 必死に理性を奮い立たせ、『そろそろ帰るよ』と言って家を出た。平静を装ったつもりだが、心の中は限界寸前だった。

「せっかく築いてきた信頼を、自分の手で崩すところだった……」

 自分がこんなに忍耐力がない男だったなんて知らなかったと小さくつぶやく。

 中里は、なによりも花音ちゃんを大切にしている。女性としての幸せよりも、母としての責任を重要視していることは、痛いくらいに伝わってきた。

 そんな彼女に好意を抱き、支えたいと思っていたのに、男としての欲望を抱いてしまったことに罪悪感が込み上げる。

「恋愛感情に振り回されるなんて、無駄でしかないと思っていたのにな」

 そうつぶやいた時、スマホが震えた。

 発信者の名前を見て、思わず眉をひそめる。そこには、清水杏奈と表示されていた。

「……またか」

 小さくつぶやいたけれど、応答ボタンは押さず、呼び出し音が止まるまで、ひとり外を眺めていた。