12自制心の限界 神崎side
アパートを出て車に乗り込んだ瞬間、大きく息を吐き出した。ハンドルに額を押し付け、しばらくそのまま動きを止める。
「……あぶなかった」
ひとりきりの車内で、そんなつぶやきをもらした。
中里と花音ちゃんと過ごした時間は、とても穏やかで楽しかった。
はしゃぎ疲れて眠ってしまった花音ちゃんの寝顔を思い出す。
花音ちゃんを起こさないように、和室は照明をつけていなかった。リビングからもれる微かな光だけの、薄暗い部屋。娘を見つめる中里の優しい横顔に、愛おしさで胸がいっぱいになった。
けれど中里と目が合い、彼女の頬が赤く上気していくのを見た瞬間、触れたいという衝動が込み上げた。
抱き寄せて、頬に触れ、キスをしたい。
そんな俺の気持ちが伝わったのか、中里の喉がごくりと上下する。目もとを赤く染めこちらを見つめる彼女は、あまりにも無防備だった。
あと数センチ近づけば、唇が触れる。勝手に体が動きそうになって、我に返った。
俺は、今なにをしようとしたんだ。相手の了解も得ずにキスをするなんてありえない。



