バツイチだけど恋をしてもいいですか

 課長がわずかに体を動かし、距離がさらに近づいた。彼から漂うほのかな大人の香りと体温を感じ、体が熱くなる。

 どうしよう。もしかして……。

 緊張で心臓が押しつぶされてしまいそうになった時、ふっと距離が離れた。

「そろそろ帰るよ」

 その言葉に、「え」と目を瞬かせる。

「あまり遅くまで長居して、また体調を崩させたら申し訳ない」

 課長は冷静な口調でそう言いながら、静かに立ち上がる。

「今日はごちそうさま。オムライス、本当においしかった」
「あ、はい……」

 ぽかんとしたままうなずいて、玄関で課長を見送る。

「じゃあまた明日。会社で」

 そう言って、課長は帰っていった。パタンと音を立てて閉まったドアを前に、私はその場にへたり込む。

「あんなにあっさり帰っていくなんて、拍子抜けなんだけど……」

 無意識につぶやき、慌てて首を横に振った。

「別に、なにかを期待していたわけじゃないし、がっかりもしてないから!」

 誰も聞いていないのに、言い訳のようにそんなひとり言をもらしてしまった。