バツイチだけど恋をしてもいいですか

 分厚いファイルをデスクに置かれ、目を瞬かせる。

「今日中にですか……?」

 時計の針は十七時を指していた。どう考えても、定時の十七時半までに終わる量じゃない。

 戸惑う私に向かって、渡辺さんは「え、断わる気なの?」と大きな声で言う。

「遅刻ギリギリに来ておいて、振られた仕事も断わるなんて。そんな無責任なことしないわよね?」

 そんなふうに言われたら、断われるわけがない。

「……わかりました」

 うなずくと、渡辺さんは「よろしくね」と言って私のデスクから離れ、同僚の女性社員たちと食事に行く相談を始めた。

 そんなやりとりを横目に、急いでファイルを開く。

 本当は保育園のお迎えがあるのでと断わりたかった。だけど、正直に事情を話すわけにはいかないし……。

 今日は週末の金曜日。定時を過ぎると社員たちはそれぞれに「お疲れ様」と言ってフロアを出ていく。

 静まり返ったオフィスに、キーボードを叩く音だけが響いていた。

 少しでも早く終わらせて、花音を迎えに行かなきゃ。