バツイチだけど恋をしてもいいですか

 中里の頬が、わずかに赤くなったように見えた。

「おはようございます、神崎課長」

 その挨拶に「おはよう」と短く返す。

 視線が絡んだのは一瞬。他人にはわからない、わずかな目配せ。そして何事もなかったかのように、彼女は自分の席についた。

 昨日は丸一日一緒に過ごしたのに、今日は暗黙の了解で上司と部下として接する。秘密を共有しているようで、落ち着かない気持ちになった。

 普段通り集中しているつもりが、どうしても気がそれる。このまま仕事を続けても効率は上がらないだろう。

 そう思い、一旦気持ちを切り替えるために立ち上がる。コーヒーでも飲もうと休憩スペースに向かうと、「お。亘一」と背後から声をかけられた。

 やってきたのは、大吾だった。

「昨日はお疲れさん。楽しかったな」

 笑顔で言われ「あぁ」とうなずく。

「ジュニアシートを貸してもらえて助かった。今度家まで返しに行く」
「あれ、返さなくていいよ。蓮にはもう小さいし、また使う機会があるだろ」

 笑いながら首を横に振られ、また使う機会があるんだろうかと考える。