バツイチだけど恋をしてもいいですか

 中里はしばらく黙り込んだあと、「……私もです」とつぶやいた。

「私も、課長と水族館に来られて、うれしかったです」
「そうか」

 前を向いたまま、短く答えるのが精いっぱいだった。

 ふたりはそのまま黙り込み、車内には沈黙が流れる。気まずいはずのその静けさまで、なぜだか愛おしく感じた。

 こんな感情を覚えるのは、生まれて初めてだった。





 翌日。いつもと変わらない時間に出社し、いつものようにパソコンを立ち上げた。

 届いているメールを確認しながらも、フロアの入り口に意識が向いてしまう。文字を読んでいるはずなのに、内容が入ってこない。

 腕の中で眠る花音ちゃんの重み。中里のはにかんだ表情と、『私もうれしかったです』という言葉。

 昨日の記憶が頭をよぎり、胸がざわついてしまう。

 集中しようと息を吐きディスプレイを見つめた時、「おはようございます」という声が聞こえた。

 入り口に視線を向けると、中里の姿があった。

「おはよう、中里さん」
「おはようございます」

 彼女は同僚たちに挨拶をしながらフロアに入ってくる。そして、その視線がこちらに向いた。