バツイチだけど恋をしてもいいですか

 このままじゃ中里が転んでしまうと思い、咄嗟に腕を伸ばして彼女の体を引き寄せた。

 胸の中に飛び込んできた、華奢なのに柔らかい体を抱きとめる。ふわりと髪が揺れ、優しい香りが鼻先をかすめた。

「す、すみません……っ! あ、あのっ。部長が捜していたので、呼びに来て……」

 中里が顔を真っ赤にしながら早口で説明する。その時、足音が近づいてくるのに気が付いた。そして、複数の女性の話し声が聞こえてきた。

 俺は反射的に彼女の背中に手を回したまま、資料室のドアを閉める。

「か、神崎課長……っ?」
「静かに」

 そう言って、戸惑う彼女の言葉を指先で遮った。

 中里を胸に抱きしめたまま、じっと息をひそめる。

「もうすぐ連休だよね。どっか行く?」
「行きたいけど、ダラダラしてるだけで終わっちゃいそう」
「わかるわ~」

 ドア一枚隔てた廊下を、女性社員たちが笑いながら通り過ぎていく。

 その声は次第に遠ざかり、やがて静かになった。

 それを確認してようやく息を吐き出す。けれど安堵した次の瞬間、腕の中にある温もりに気付き、はっとする。