バツイチだけど恋をしてもいいですか

 無視するわけにもいかず、ほかの社員に気付かれないようそっと立ち上がる。

 フロアを出てついていくと、駿介はひと気のない階段の前で立ち止まった。

「お前、法務部で余計なこと言ってないだろうな」

 さっきまでとは別人のような不機嫌な態度で問われ「余計なことって?」と聞き返す。

「だから、花音のことだよ。お前、神崎課長になにか言ったんじゃないのか?」

 駿介は、『子育てをしているから』という言い訳が、課長に通用しなかったことが不満のようだ。

 悪いのはルールを守らない自分なのに……と思いながら顔をしかめる。

「言うわけないでしょ。あなたから秘密にしろって言われてるんだから」

 私、中里愛美は目の前にいる彼――同期の沢辺駿介と結婚していた。

 社交的で明るい彼が、実は亭主関白でモラハラ気質だということに気付いたのは、花音を出産してから。

 駿介は初めての子育てで手いっぱいの私を、『家のことは後回しで、赤ん坊の世話ばかりして。夫の俺のことはどうでもいいのか』と責めるようになった。