溺愛王子サマ達と秘密の同居

 わたし、夢咲すずは、いま人生最大のピンチの真っ最中です。

 だって、お兄ちゃんの代わりに男装して学園に通うことになるなんて、そんなの聞いてない。

 しかも、話はある日いきなり降ってきた。

 夕方。
 いつものようにリビングでのんびりしてたら、電話を受けたお母さんの顔色がさっと変わった。

「え……うそ。骨折?」

 その一言に、わたしは思わずソファから立ち上がる。

「お母さん、どうしたの?」

 お母さんは、ぎゅっと受話器を握ったまま、こっちを見た。

「すず、お兄ちゃんがけがしたの」

「……え?」

「階段から落ちて、足を骨折したんだって」

 一瞬、頭が真っ白になった。
 お兄ちゃんが、骨折。
 その言葉だけが、ぐるぐる頭の中を回る。

「だ、大丈夫なの?」

「命に別状はないみたい。でも、しばらく動けないって……最低でも一か月は安静が必要らしいの」

「一か月……?」

 それって、かなり長い。
 留学先の学園って出席日数とか厳しそうだし、大丈夫なのかなって思った、そのときだった。

 電話を切ったお母さんが、困ったように眉を下げる。

「このままだと、お兄ちゃん、学園に戻れないかもしれないの」

「戻れないって……」

「出席日数が足りなくなるかもしれないんだって」

 その言葉に、胸がぎゅっと苦しくなる。
 お兄ちゃんはずっとその学園で頑張ってた。夢みたいな場所だって、前にうれしそうに話してたのを覚えてる。

「そんなの、だめじゃん……」

 ぽつっとこぼしたわたしに、お父さんが腕を組んだまま口を開いた。

「ひとつだけ方法がある」

「え?」

 お父さんとお母さんが、そろってわたしを見た。
 ……なんかすごく嫌な予感がする。

 いや、ほんとに。
 こういうときの大人って、ろくでもないこと考えてる顔をするのだ。

 そして次の瞬間、その予感は見事に当たった。

「すず、お兄ちゃんの代わりに学園へ行って」

「……は?」

 一秒遅れて、言葉の意味が頭に届く。

「え、ちょっと待って。今なんて言った?」

「だから、お兄ちゃんの代わり。顔、けっこう似てるでしょ。髪を短くして、男の子みたいにすればいけるかなって」

「いけるかなって、そんな軽く言わないで!?」

 思わず声がひっくり返る。
 いやいやいや、無理でしょ。どう考えても無理。
 わたしは女の子だし、男装なんてしたことないし、そもそもそんな大事な学園に代わりで通うとか責任が重すぎる。

「むりむりむり! 絶対むり!」

「でも、このままだとお兄ちゃん、留学を続けられなくなるかもしれないのよ?」

「うっ……」

 それを言われると弱い。
 お兄ちゃんががんばってきたの、わたしだって知ってる。知ってるけど、でも。

「一か月だけでいいの」

「一か月だけって言うけどさ……」

「しかも寮生活だ」

「りょ、寮!?」

 わたしはその場で固まった。

 学園。
 男装。
 お兄ちゃんの代わり。
 そのうえ寮生活。

 いや、情報量多すぎない!?

「ちょっと待って、ほんとにそんなのバレないの?」

「たぶん」

「たぶんで行かせようとしてるの!?」

 思わず叫ぶと、お母さんは目をそらした。
 あ、これ、けっこう見切り発車なやつだ。

 でも、お兄ちゃんの夢がかかってると思うと、強く突っぱねられなかった。

 わたしが黙りこんでいると、お母さんがそっと言う。

「お願い、すず」

 その声が、ずるいくらい弱くて。
 わたしは大きく息を吸って、それから観念したように肩を落とした。

「……ほんとに、一か月だけだからね」

「すず!」

「その代わり、バレたら全部そっちのせいだから!」

 半分やけっぱちでそう言ったわたしは、そのときまだ知らなかった。

 転入するその学園に、かつて世間を熱狂させた元伝説級アイドルグループ Shine4がいること。
 しかも、そのメンバーたちと同じ寮で暮らすことになるなんてことを――。