マジカル・ツッパリ・マネーゲーム







「オラァッ! どいつもこいつも、生ぬりぃんだよォォ!」

ドゴォン!

鈍い音が響き、ガラの悪い男ヤンキーがまた一人、コンクリートの地面に沈んだ。

夕暮れ時の寂れた公園。

少女の周囲には、地元の悪名高い暴走族『黒蛇』のメンバーが二十人近く転がって呻いている。どいつもこいつも、特攻服を泥だらけにしてピクリとも動かない。


「っはぁ……。期待外れもいいとこだな。人数ばっか集めやがって…。」

額の汗を学ランの袖で乱暴に拭い、私は大きく息を吐いた。

私の名前は、夜桜 恋結(よざくら まゆ)。
自分で言うのもなんだが、この界隈の不良どもを全員力でねじ伏せて頂点に立った、最強のヤンキー女子高生だ。

だが。
ただ一つ、私の最強ロードにおける最大の汚点がある。
それは,この「まゆ」というウルトラキュートでメルヘンな本名である。

親が他界する前に残した唯一の遺産がこの名前なのだが、ヤンキーとしては致命的にダサい。
だから周囲には「タイガーと呼べ」と強制している。
もしうっかり「まゆちゃん」などと呼ぶ奴がいれば、即座に相手の顎を砕くのが鉄則だ。


「よし、飯にするか。今日はもやしが安い日だったな……」

中身がほとんど入っていないスカスカのカバンを肩に担ぎ、歩き出そうとする。

その時だった。

『――おめでとう! 君は『愛と正義の魔法少女』に選ばれました!』

脳内に直接、妙にエコーの効いた男の軽薄な声が響く。

次の瞬間、私の全身が、眩いピンクの光に包まれた。

「あァ!? なんだこれ、光っ……おい!?」

視界が真っ白になり、急激な浮遊感に襲われる。
重力が消え、どこかへ引きずり上げられるような感覚。

次に目を開けた時。
私はコンクリートの公園ではなく、雲の上のようになびく、真っ白でやたらと神々しい空間に立っていた。


「…あァ…?……何処だ、ここ……。」

『あはは。ここは天界だよ〜。」

後ろから突然声がした。
慌てて振り向く。

『ようこそ、愛の戦士よ!』

目の前に浮かんでいたのは、光り輝く後光を背負った、白いローブ姿の男。
見た目は二十代後半。金髪で、ヘラヘラした笑みを浮かべている。


見るからに胡散臭い。

「……あ?誰だお前。タイマンか?」

私は即座に腰を落とし、ファイティングポーズをとった。
神様は「怖い怖い♪」と両手を挙げて後ろに半歩さがる。

「暴力はノンノン♪僕は神様。今、世界は恐ろしい闇の怪人に狙われていてね。そこで目をつけたのは、君のその素晴らしい戦闘力!君には魔法少女『マジカルまゆゆ』として世界を救ってほしいんだ!」

「はぁ!?マジカルまゆゆだァ!?誰がそんな激甘な名前でフリフリの格好なんかするか!ふざけんな帰せ!私はもやしを買いにいくんだよ!」

私は思い切り中指を立てて怒鳴る。

すると、ソイツはフッと不敵な笑みを浮かべ、パチンと指を鳴らした。

突然、真っ白だった空間が暗転する。

ガタガタガタと空間全体が不気味に震え出し、私の目の前にドロドロとした血の池や、無数の生首が飛び交う、おどろおどろしい映像が浮かび上がった。

『もし断るならぁ……君をこの地獄の最下層にブチ込んで呪い殺してあげるよぉ~?』

神様の声が、急に地を這うような悪魔のトーンに変わる。

生首が不気味な笑い声をあげて、私の目の前に迫ってくる。

「……っあ……ぁぁっ!?」


最強のヤンキーである夜桜恋結、最大の弱点。

それは、失神するほど「ホラーが苦手」ということだ。

お化け屋敷はお金を積まれても入らないし、心霊番組の予告が流れただけでテレビのコンセントを抜くレベルである。

目の前の生首(神がさっきパソコンでテキトーに作った3Dグラフィック)の圧倒的な不気味さに、私はガタガタと膝を震わせ、涙目で頭を抱えてしゃがみ込んだ。

「わ、わかった! やる! やればいいんだろ! その呪いのビデオみたいなの消せぇぇぇ! 早く消してお願いだからぁぁぁ!」

「は〜い、交渉成立!」

パチン、と再び指が鳴ると、世界は一瞬で元の白い空間に戻った。
神様はいつものヘラヘラ顔で、手元に「契約書」と書かれた光る紙を浮かべている。

「サインは僕が代筆しといたからね。あ、ちなみに君の相棒も別ルートで強制契約(スカウト)しておいたから。現地集合でよろしく!」

「相棒……? っておい、待て、勝手に話を進め――」

「それじゃ、いってらっしゃーい!」

神様が満足げに親指を立てた瞬間、私の足元の床がパカッと開いた。







「うわあああああああ!?クソ神ぃぃぃぃぃぃ!」


底なしの虚空へと真っ逆さまに落ちてゆく。

落下しながら、私の体に信じられない異変が起き始めていた。

着ていた学ランがバラバラとはじけ飛び、代わりに、ピンク色のレースとフリルがこれでもかとあしらわれた、頭痛がするほどきめぇドレスが体に吸い付いていく。


「な、なんだこの格好はぁぁぁぁ!?」
風圧で顔を引きつらせながら、これから始まるであろう最悪な魔法少女としての人生に絶望するのであった。