「ごめんなさい」
――初恋は叶わない、なんて、迷信だと思っていた。
初恋だって、頑張れば、努力すれば叶うはずだと、心のどこかで考えていた。
けれど、たったいま「なんかむり」の一言で初恋が終わった僕には、1+1が2であるくらい、当たり前に決まっていたことのように感じられた。
「じゃあ、あたし帰るから」
傷つき、悲しみ、押し黙る僕に背を向けて、彼女――本橋弥生は去った。
彼女の姿が視界から消えた途端、ふらりとよろめき、思わずその場にしゃがみこむ。
放課後の中庭には僕しかいなくて、ここを照らす夕日も、運動部の掛け声も、遠く感じた。
ショックが落ち着いてくると、徐々に自責の念に駆られて頭を抱えた。
……どうして、告白なんてしたんだろう。
……どうして、本橋さんを好きになったりしたんだろう。
――告白して両思いになってハッピーエンド、なんて、陽キャだけだとわかっていたのに。
――陰キャの告白に意味はないと、知っていたのに。
「陰キャは、告白なんて――恋なんて、するべきじゃなかったんだ」
本音がぽろりとこぼれる。
その瞬間、頭上に影が落ちた。ひどく小柄な影だった。
「そんなことないです……って、月並みなことしかいえなくて、すみません」
荒賀薫。カースト的には僕と相違ないくらい、めだたない存在。
独り言を聞かれていた恥ずかしさから、僕は視線を逸らす。
しかし荒賀さんは、雪のように白い頬を上気させ、澄んだ目で僕を見た。
「陰キャが告白したっていいんです。恋したっていいんです。砕けたって死にません」
失恋を砕けると表現する荒賀さんに独特のワードセンスを感じながら、僕は反論する。
「でも、どうせフラれるんだ。告白したって意味なんてな――」
「あっ、あります!」
荒賀さんは僕の言葉を遮ってそう叫んでから、急に大声出してごめんなさいと謝った。
いいよ、気にしないでと応えた僕に、荒賀さんは懸命に訴える。
「告白したら、自分がわかるんです。目の前の相手を好きになった自分、恋人になりたいと思った自分、そして現段階で相手の心にいない自分――。そしたら、これからどうしたいかがわかります。一歩、前に進めるんです」
だからいいます。荒賀さんは僕の目を見て、震える声でいった。
「あなたのことがすきです」



