想定外につき、対処不要

 食事を終えて、現場を覗くと、撮影はまだ続いていた。緊張した気配に息を潜め、足を踏み入れた時だった。助監督が俺のほうに歩み寄り、顔を下げるように視線で促してきた。そのまま顔を下げると、助監督が耳打ちをするように顔を上げ、「監督から話があるみたいだから、出入り口の傍で待ってて貰える?」と声を潜めて言った。

「かしこまりました」と同じような声で俺は言い、踵を返して、出入り口の横のほうに立った。直ぐに監督が俺の近くに来て、現場の様子を窺った。その後で、辺りを見回してから、俺の腕に手を掛け、少し離れた場所まで促した。

「何か有りましたか?」そう俺が尋ねると、監督は軽く口を結んでから、おもむろに口を開いた。

「あの人……立花さん、だっけ。君の社の人?」

「いえ。支社の者で、今回は視察に来ております。申し送りが遅くなり、済みません」俺が謝罪を口にすると、監督は少し表情を明るくさせ、軽く首を振ってから、こちらに目を向けた。

「いや、それについては特に気にしない。でも……少し目立つようだから、早めに切り上げて貰うと助かる」と監督は言って、俺の腕を手で優しく叩き、軽く口角を上げた。

「申し訳御座いません。こちらの不手際でした。そのように対処致します」そう俺が言い終えると、監督は途端に顔色を変え、「それより、さっきはありがとう。飲み物、助かったよ。君も水分は取ったほうがいいよ。熱くなると忘れるから」と言って、現場に戻って行った。

 そこで俺は思い返したが、まず立花の動向を確認しようと、現場に足を進めた。すると、立花は豆田の横に寄り添い、何かと話しかけているようだった。
 俺はそれを横目で眺めながら足を進め、少し離れた場所で佇み、時計を目にしてから聞き耳を立てた。周りの様子を窺い、撮影も意識し、神経を研ぎ澄ました。

 あまり会話は聞こえて来ないが、断片的に拾うと、私的な事が含まれているようだ。現場を行き交うスタッフは、足音を立てぬよう歩きながら、二人の様子を目に留めていた。そして遠くのほうでは、何人かの女性が二人を見た後で、耳打ちをし始めた。そこから現場には不穏な空気が漂い、俺は二人の間に割って入ろうとしたときだった。

 豆田が立花との会話を終え、こちらに来ると、俺のほうを見て言った。

「うわ、背高っ。ちょっと僕と同じくらいにしてみて」

 俺は辺りを窺いながら、言うとおりに少し膝を落とした。すると、豆田は一歩前に出て、耳打ちをしてきた。

「あの人、僕じゃ話にならなかった。一応止めたけど、余計なことしてたらごめん」そう言って豆田は踵を返し、静かに監督の元に歩いて行った。

 俺は事態の収拾について考えを巡らせ、立花の元に向かって行った。