それから直ぐに辞令が下りて、俺は引き継ぎに取り掛かった。その間、歌音の所に行くことは少なかったが、新人には性格から動向、好みや適切な仕事量に至るまで細かく伝えた。
新人は最初こそ嫌そうな顔をしていたけど、歌音に1日付かせると、直ぐに慣れたようで、『あの子、俺が付いてる必要あるんですかね……』と少し困惑していた。
俺は肩を軽く叩いて、『それが歌音だから。とにかく、今は業務のほうに集中したほうが良い』と励ましたが、新人には浮かない顔をされた。
これで俺は漸く正式に彼女の担当に戻れる。
まずは本社に行って、デスク周りの整理や設備も整えないと。そう考えたところで時計を確認し、先に撮影現場を見ておこうと思い直した。
歌音の収録スタジオから抜け出し、彼女の撮影現場まで少し急いで足を進めた。
現場に着いてみると、そこには懐かしい景色が広がっていた。
大勢のスタッフが撮影を見守り、監督は邪魔にならない場所で椅子に座ったまま、真剣な様子で前を見据えていた。
今日はあの若手俳優も加わってるようだが、名前が思い出せない。
確か……と考えを巡らせながら、俺はそのまま足を進め、飲み物コーナーの脇に静かに佇んだ。目の前の撮影を意識しながら、飲み物を凝視した。
紙コップを手にし、水を少し注いで口に含んだ。よし、問題無し。お茶や珈琲も温度の管理がされていて、選択も出来るようだ。ジュースの種類も豊富で、菓子まで用意されている。この現場のスタッフはかなり仕事が出来るようだ。そう感心していた時だった。
「カット!豆田くん、そこは彼女の手をさり気なく掴んで……」と監督の軽い苛立ちが声に乗り、監督は自ら足を進め、豆田の元に行き、その手を彼女の手の上に置いた。
「ちょっと掴んでみて」と監督が指導をすると、豆田は直ぐに彼女の手を握った。
そこで俺は小さな音を耳にし、ふと視線を下げると、紙コップが少しへこんでいた。飲み物が入ってなくて良かった、とそのまま紙コップをゴミ箱に捨て、違う飲み物を少し注いで口に含んだ。こちらも問題無し。そう思った所で、再び監督の声が上がった。
「もう少し軽く掴んで」
豆田は彼女の指先を握って、監督の表情を確かめていた。
すると、どこかで聞いた音がして、再び俺は視線を下げた。手にした紙コップが形を変えていた。
なぜだ。強度の問題か?スタッフの不手際だとは思えないから、一応確認しておいたほうが良さそうだ、と思い、紙コップを幾つか手にしてみた。
だが、どの紙コップも同じ材質で、個体差の問題だと結論付けた。
こういう現場では陶器は使用できないから仕方ない。そう諦め、時計を確認してから、長丁場になる事を予想し、現場を後にした。
新人は最初こそ嫌そうな顔をしていたけど、歌音に1日付かせると、直ぐに慣れたようで、『あの子、俺が付いてる必要あるんですかね……』と少し困惑していた。
俺は肩を軽く叩いて、『それが歌音だから。とにかく、今は業務のほうに集中したほうが良い』と励ましたが、新人には浮かない顔をされた。
これで俺は漸く正式に彼女の担当に戻れる。
まずは本社に行って、デスク周りの整理や設備も整えないと。そう考えたところで時計を確認し、先に撮影現場を見ておこうと思い直した。
歌音の収録スタジオから抜け出し、彼女の撮影現場まで少し急いで足を進めた。
現場に着いてみると、そこには懐かしい景色が広がっていた。
大勢のスタッフが撮影を見守り、監督は邪魔にならない場所で椅子に座ったまま、真剣な様子で前を見据えていた。
今日はあの若手俳優も加わってるようだが、名前が思い出せない。
確か……と考えを巡らせながら、俺はそのまま足を進め、飲み物コーナーの脇に静かに佇んだ。目の前の撮影を意識しながら、飲み物を凝視した。
紙コップを手にし、水を少し注いで口に含んだ。よし、問題無し。お茶や珈琲も温度の管理がされていて、選択も出来るようだ。ジュースの種類も豊富で、菓子まで用意されている。この現場のスタッフはかなり仕事が出来るようだ。そう感心していた時だった。
「カット!豆田くん、そこは彼女の手をさり気なく掴んで……」と監督の軽い苛立ちが声に乗り、監督は自ら足を進め、豆田の元に行き、その手を彼女の手の上に置いた。
「ちょっと掴んでみて」と監督が指導をすると、豆田は直ぐに彼女の手を握った。
そこで俺は小さな音を耳にし、ふと視線を下げると、紙コップが少しへこんでいた。飲み物が入ってなくて良かった、とそのまま紙コップをゴミ箱に捨て、違う飲み物を少し注いで口に含んだ。こちらも問題無し。そう思った所で、再び監督の声が上がった。
「もう少し軽く掴んで」
豆田は彼女の指先を握って、監督の表情を確かめていた。
すると、どこかで聞いた音がして、再び俺は視線を下げた。手にした紙コップが形を変えていた。
なぜだ。強度の問題か?スタッフの不手際だとは思えないから、一応確認しておいたほうが良さそうだ、と思い、紙コップを幾つか手にしてみた。
だが、どの紙コップも同じ材質で、個体差の問題だと結論付けた。
こういう現場では陶器は使用できないから仕方ない。そう諦め、時計を確認してから、長丁場になる事を予想し、現場を後にした。



