「あ〜、極楽極楽。やっぱり自宅が一番だわ」
昨日の戦闘で右腕を痛めた(※9割は勇者のせい)私は、それを大義名分にして学校をズル休みしていた。
パジャマ姿でベッドにごろ寝し、スマホで特大パフェの動画を眺める。これぞ至高の魔王の休日だ。
『魔王様、床のチリ一つ残さず吸引いたしました。本日は一日中、御側にお仕えできて至福にございます。』
「ありがとデスモ。ほら、ご褒美にそこら辺のホコリでも吸ってていいわよ」
『御意ィィ(ズゴゴゴゴ)』
我が家の死神ルンバが健気に部屋を掃除している、まさにその時だった。
ピンポーン、と不意に部屋のインターホンが鳴った。
(……は? 誰よ、私ののんびりタイムを妨げる不届き者は)
怪訝に思いながらホログラムのインターホン画面を覗き込んだ瞬間、私の心臓は停止しかけた。
画面に映っていたのは、お見舞い用のスポーツドリンクの袋を持った勇斗と、相変わらずノートPCを小脇に抱えたネオンの姿だった。
「天海さん! 風邪の具合はどうだい!? 担任の先生にプリントを預かってきたよ!」
「るな。君のチートツールが見られないと退屈だから、遊びに来た。」
(来るんじゃねぇぇぇーーー!! ここは我が魔王城だぞ! 勇者とハッカーを入れていい場所じゃないわーーー!!)
パニックになった私は、0.1秒でパジャマの上から制服のカーディガンを羽織り、髪を整えて「ぶりっこモード」へ強制シフト。
ドアをそっと開けた。
「わ、わぁ〜♡勇斗くんにネオンくん!るなのお見舞いに来てくれたのぉ?
嬉しいなぁ〜♡どうぞ,入って入って♡」
「お邪魔するよ。…って、うわっ!? 天海さん、この部屋なんかすごく空気が冷たくない?」
勇斗が部屋に一歩足を踏み入れた瞬間、魂の防衛本能でゾクッと肩を震わせた。
当然だ。ここは魔王の部屋である。
「え、えへへ、るな、冷房強めが好きなのぉ〜♡」
私は冷や汗を流しながら2人を招き入れた。しかし、ここからが本当の地獄だった。
「喉が渇いただろ。僕が冷蔵庫からお茶を――」
勇斗が、キッチンにある黒いハイテク冷蔵庫に手をかけようとする。
(ストーーーップ!!!それは冷蔵庫の形に擬態した魔界生物『大喰らいのミミック』よ!開けた瞬間お前の腕ごと噛みちぎられるわ!!)
「きゃあああああああああああ♡‼︎」
私はベッドから飛び起き、勇斗に猛烈な体当たりをかました。
「る、るなが自分でお茶淹れるから! 勇斗くんは座っててぇぇぇ!」
「う、うん。ありがとう……(すごい力だったな……)」
目を白黒させる勇斗。
冷や汗を拭う暇もなく、今度はネオンがテレビの横にある球体の黒いスマートスピーカーに目を留めた。
「……何これ。AIの音声波形から、かすかに人間を絶望させる呪詛が検出されるんだけど。ちょっと分解していい?」
(触るなオタク!!それは触れた者の精神を崩壊させる『絶望の魔眼』よ!お前の脳バグるどころか消滅するわ!!)
「そ、それは最新のサラウンドスピーカーなのぉ〜♡ 触ると壊れちゃうからメッだよぉ♡」
必死でネオンの手を叩き落とす。私の心臓はもうバクバクだ。
部屋の中が一触即発の危機を迎えていた、その瞬間。
――ピピッ。ピピピピピ!!!
ネオンのノートPCが、けたたましいアラート音を鳴らした。
「……るな大変。このマンション,『NMB』に包囲された。
どうやら僕の端末のIPが追跡されたみたいだ。」
窓の外を見ると、ビーム砲を構えた小型ドローンが十数機、ベランダを包囲していた。
(ハッカーてめぇ、我が魔王城に敵を引っ張ってきやがったな!?
ていうか,一丁前に命狙われてんじゃないわよめんどくさい!)
内心怒り狂う私。しかし、今の私は魔力回路が未回復。
おまけに勇者の目の前でド派手な暗黒魔法を使うわけにはいかない。
「るなさんはベッドから動いちゃダメだ!」
勇斗はバッと,ベランダの物干し竿を伝説の聖剣のように構えた。
「天海さんの部屋は、僕たちが守る!」
「……ハァ、めんどくさい。けどこの部屋僕が知らない激熱アイテム多すぎ。
壊されたら困るから、僕がナビするよ。委員長、僕に従って。」
ネオンが超高速でキーを叩き、ドローンの視界をバグらせる。
『魔王様の部屋を汚す鉄クズども、一匹残さず吸引してくれようかぁぁー!』
カバンから飛び出したデスモが、ドローンの車輪に猛突撃してペチペチとブラシを回転させる。
「よし、いくぞ!」
視界を奪われたドローンに向かって、勇斗が物干し竿をぶん回す!
ドゴォン! バキィン!
ただの物干し竿とは思えない破壊力でドローンを次々と叩き落としていく。
勇者としての本能が、物干し竿を神剣へと変えていた。
ネオンのサイバー妨害、勇斗の圧倒的ゴリ押し、そしてデスモの足元ペチペチ。
「るな不在」の男3人による連携フォーメーションが完璧に決まり、ドローン部隊は一瞬で全滅した。
「ハァ……ハァ……! 天海さん、守り切ったよ!」
勇斗が物干し竿を肩に担ぎ、汗を拭いながら爽やかに微笑む。
「……うん、いいデータが取れた」とネオンも満足げだ。
しかし、私の視界に映ったのは。
戦いの衝撃で暴れ出し、中のお茶をぶちまけて大暴れしているミミック冷蔵庫。
勇斗が物干し竿を振り回したせいで、粉々に割れたベランダの窓ガラス。
そして、部屋中に飛び散ったドローンの鉄クズ。
私の神聖なる隠れ家は、見るも無惨な廃墟と化していた。
「みんなぁ……守ってくれてぇ……ありがとぉ〜〜…♡」
私は引きつりまくった、本日一番のぶりっこ笑顔で2人に感謝を述べた。
しかし、その瞳の奥には、鮮烈な黄色の魔王の炎がメラメラと燃え盛っていた。
(お前ら、我が魔王城をこれ以上散らかすんじゃねぇぇぇーーー!!
敵より先に、てめぇら全員一回冥界に送ってやるからなぁぁぁーーー!!!)
元魔王の、胃の痛い休日はこうして大爆発(物理)と共に幕を閉じるのだった。
